樋口由紀子
ミの音が抜けてえぐっぽい一日だ
安黒登貴枝 (あぐろ・ときえ)
「えぐっぽい」という言葉がまず目にとまった。広辞苑でひくと「あくが強く、のどをいらいらと刺激する味がある」とあり、あまり良いイメージではない。「えぐい」を音読したら、E音U音I音と上がっていく。漢字では「蘞い」、難しい。接尾語の「ぽい」でヒートアップする。どんな一日を喩えているのだろうか。
「ミの音」はまっすぐに発音するので、やましさやにごりがない。そんな健康的なものが抜けてしまったのに、だから困ったという印象はない。その一日を引き受けますと言っているみたいだ。作者は「ミの音」を持て余していたので、すっきりして、自分らしくなったのかもしれない。さぞかし、たいへんな、それでいて生き生きとした「えぐっぽい一日」になったことだろう。「湖」(第11号 2020年刊)収録。
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