2012年5月31日木曜日

●コモエスタ三鬼31 高きより

コモエスタ三鬼 Como estas? Sanki
第31回
高きより

西原天気


映画『第三の男』(キャロル・リード監督/1949年)の観覧車のシーン。悪党ハリー・ライムは、地上をはるかに見下ろし、行き交う人を指して、「あの小さな点が動かなくなっても、それで大金が手にはいるなら、気にはならないだろう?」(大意)とうそぶく。闇で捌いているペニシリンが原因で人が死んでも、知ったことではない、というわけ。

高いところに登ると、人が虫のように小さくなる。人をひねり潰すことには罪悪感を感じても、虫なら、感じない。高所はしばしば神の視座となる。




穀象の群を天より見るごとく  三鬼(1947年)

数十センチの眼下ではあっても、三鬼の視座は「天」のものだ。

三鬼は悪党ではないが、悪党的な達観は、しばしば句に現れる。オーソン・ウェルズの演じたハリー・ライムも、三鬼も、なかなかの伊達(ダンディ)。


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2012年5月30日水曜日

●バター

バター

パンにバタたつぷりつけて春惜む  久保田万太郎

山に星バターナイフの涼しかり  矢口 晃〔*〕

金塊のごとくバタあり冷蔵庫  吉屋信子

〔*〕『俳コレ』(2011年12月・邑書林)より

2012年5月29日火曜日

●ペンギン侍 第43回 かまちよしろう

連載漫画 ペンギン侍 第43回 かまちよしろう

前 回


つづく


かまちよしろう『犬サブレ 赤』 絶賛発売中!

2012年5月28日月曜日

●月曜日の一句〔鳴戸奈菜〕 相子智恵


相子智恵








ふつつかな雄鶏といる短夜の
  鳴戸奈菜

句集『永遠が咲いて』(2012.4/現代俳句協会 現代俳句コレクション1)より。

「短夜の」と、一句に続きがあるような終わり方が印象的だ。

どことなく柿本人麻呂の和歌「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む」を思い起こさせる。「雄鶏」と「山鳥」、「短夜」と「長々し夜」あたりのイメージと、「の」でつながっていくような感じからである。一句をそのまま読んでも俳味があって面白いし、和歌とイメージを比べて読んでみても、また面白い。

人麻呂の和歌は「ひとり」だが、こちらは気が利かない雄鶏と一緒に過ごす、夏の短くて明けやすい夜だ。夜だから雄鶏は夜目がきかず、動作がさらにおぼつかないのだろう。不器用な雄鶏があわてているようで、「ふつつか」に愛嬌がある。

そんな雄鶏といる「短夜の」の続きがどうなったのか、気になって仕方がない。続きが気になる俳句、というのもめずらしい。下の句をつけて遊びたいような句だ。

2012年5月27日日曜日

〔今週号の表紙〕第266号 黄色のばらの花@文京区。 藤田哲史

〔今週号の表紙〕
第266号 黄色のばらの花@文京区。

藤田哲史



個人的な話であるが、「ばらの花」と聴くといつも僕はくるりの楽曲を思い出す。澄んだ鍵盤の音からはじまる歌。知っている人は、知っている。知っていない人も、聴いてみればわかる。知らない人は、youtube にでも。

ついでに言えば、その曲の詞に「ジンジャーエール気が抜けて」という部分があって、「ばらの花」と聴くと、ジンジャーエールのことも思い出す。「ばらの花」と言えば?ジンジャーエール。とりわけ、ウィルキンソンの、舌がびりびりする位辛いやつ。



最近は、くるりをあんまり聴いていない。久々に聴いてみるか。


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2012年5月26日土曜日

〔かしつぼ〕犬にインタビュー 中嶋憲武

かしつぼ
犬にインタビュー


中嶋憲武

かしつぼ=歌詞のツボ

数あるムーンライダーズのアルバムのなかで、どれが一番ぐっとくるかと尋ねられたとしたら、なんの迷いも無く「ANIMAL INDEX」と答えるだろう。何故ならそのアルバムは大学時代の淡い恋の記憶と共にあるからだ。

秋のアルバム発売と同時期に渋谷公会堂でムーンライダーズのライブがあり、その会場に彼女は現れた。当時ぼくたちは同級生下級生そして他校の者も含め総勢10名ほどで、いろいろなライブを鑑賞しに馳せ参じていた。YMO、ムーンライダーズ、高橋幸宏、坂本龍一、鈴木さえ子、大貫妙子、矢野顕子、ピチカートファイブ、ビートニクス等々YMOを中心としてその周辺のアーティストのライブを好んで観ていた。そんないつもの仲間のなかに忽然と彼女は登場したのだ。学内でお互いに顔を見知ってはいたが、口を効くのは初めてだった。彼女はANIMAL INDEXのなかの「犬にインタビュー」が好きだと言った。ぼくもその曲が好きだったので、しばらく白井良明のギターなどの話をした。なんというかその時からぼくは彼女に恋をしてしまったらしい。お嬢様育ちっぽい彼女の風情に徹底的に参ったというか軍門に降ったというか、まあ惚れてしまったのだ。それからは通学の途次などに偶然一緒になって話をしたり、学食で話をしたりしていたが、デートに誘う勇気は出なかった。貧乏で冴えないぼくとは釣り合いが取れぬものを感じていたし、身分が違うとも感じていたのが、その原因だったか。

翌年の6月、ムーンライダーズのデビュー10周年記念ライブが恵比寿ファクトリー(現在閉館)で開催され、10周年記念ということで今回は総勢15名ほどで観に行った。ライブが始まる前外で待っていると、ムーンライダーズの一行が外になにやら演奏しながら出て来たかと思うと、その楽曲はなんと「ビデオボーイ」のアコースティックヴァージョンだったのだ。楽しい気分を弥が上にも盛り上げようとする小粋な演出だ。その演奏を堪能し終わり、来ているメンバーを確認すると彼女も来ていたが、その時は彼女には彼が出来ていて同伴で来ていた。好きだという気持ちはあったけれど、しょうがないよねとひとり首肯するのみだった。

ライブが始まると大はしゃぎの仲間たちを尻目に、ひとり腕組みをしてムーンライダーズの軌跡を確認するべく、じっとその歌舞音曲の内容に聞き入っていたが、「犬にインタビュー」が演奏される段に至るや、ぼくも狂喜乱舞の態を曝け出してしまった。横目で彼女の方を見ると、彼にべったりと寄り添って嬉しそうに身をくねらせていたりする。楽しいがなんとなく情けないような果敢なくなるような気分。ギュインギュインと良明さんのギターが炸裂して、悲しみをぶっとばすごとく。

ライブの後、余韻の覚めやらぬぼくたちは無軌道にライダーズの歌を高歌放吟したりしながら恵比寿駅へ向かっていたが、途中の芝生のある植え込みに鈴木慶一その人と野宮真貴が座っているのを認めた。誰かが「慶一さあん」とでも言ったものか、鈴木慶一氏は「これ、食べる?」と我々へ向かって、折り詰めの弁当を差し出した。口々にありがとうございまあす、いただきまあすなどと言って、少し離れたところでその弁当を廻し食いに及んだものだった。いやあ、犬にインタビューよかったっすよ。

2011年11月11日、ムーンライダーズは無期限活動休止に入った。もうライブで「犬にインタビュー」を聴くこともないか。


犬にインタビュー 
佐伯健三、白井良明/作詞 白井良明/作曲

犬に インタビュー
笑いかける
いまの気持ちは

“首輪をとり えさを捜す 逃げてみせるさ”

You will search me 捜しだされ
You will catch me つかまるのさ
You will seize me しめあげるよ

家を忘れ 路地を駈ける はじめての自由
口うるさく いわれるたび かみつきたくなる

You will hold me 抱きあげて
You will beat me おしおきさ
You will kill me 情けないよ

You will search me 捜しだされ
You will catch me つかまるのさ
You will hold me 抱きあげて
You will beat me おしおきさ
You will kill me 情けないよ

耳をたてて 仲間捜す どこにいるんだ
のどがかわき 熱が出てる 水をおくれよ
犬にインタビュー いいたいことは それだけですか
犬にインタビュー いいたいことは それだけなのか


2012年5月25日金曜日

●金曜日の川柳〔高橋かほる〕 樋口由紀子


樋口由紀子








大阪は轢れかけてもよい所


高橋かほる

「轢く」は自動車か電車に踏みつけられることである。なんと物騒な川柳であろうか。しかし、よくよく読むと「轢れかけても」であって「轢れても」ではない。実際に轢かれてしまっては元も子もない。そこのところはよくわかっている。それでも「よい所」はないだろうが、その一歩手前のぎりぎりの魅力を詠んでいる。確かに何事もあぶなさと紙一重の部分におもしろさが潜んでいる。同じ「ひく」でも「惹く」ならわかるが、それでは当たり前になる。

大阪にはいろんなものやめずらしいものがたくさんあり、キョロキョロとして、ついよそ見をしてしまう。道を歩いていることを忘れて見入ってしまうものがあると言いたいのだろう。作者は根っからの大阪の人で大阪を礼賛している。大阪の土地柄の一面をうまく言い当てている。〈花道は相合傘の幅に出来〉

2012年5月24日木曜日

●ペンギン侍 第42回 かまちよしろう

連載漫画 ペンギン侍 第42回 かまちよしろう

前 回


つづく


かまちよしろう『犬サブレ 赤』 絶賛発売中!

2012年5月23日水曜日

〔今週号の表紙〕第265号 荒川 西原天気

〔今週号の表紙〕
第265号 荒川

西原天気



東京・北千住駅から広い通りを西へやや行くと、旧日光街道に交わります。そこを右に折れると、その「日光街道」を謳った商店街。とはいえ、往時のおもかげなどまるでないショボい街路。そこを数百メートルも行くと、荒川の土手にぶつかります。

広い河川敷は気持ちがいいです。


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2012年5月22日火曜日

●日蝕

日蝕

日蝕のはげしきときに揚羽とぶ  百合山羽公

日蝕の天ゆらゆらと顔洗ふ  横山白虹

日蝕の白百合が喉みせている  渋谷道

日蝕はじまる 女の髪の濡れしまま  富澤赤黄男


photo by 小川由司

2012年5月21日月曜日

●月曜日の一句〔高畑浩平〕 相子智恵


相子智恵








神々は風はらむ服橡の花
  高畑浩平

句集『風』(2012.4/ふらんす堂)より。

後世に残された絵や彫刻のイメージと、当時の服装がそうだからなのだろうが、言われてみればたしかに、神様の服といえば、いつも風をはらんでいる白い布、という印象である。

〈瓊瓊杵尊【ににぎのみこと】降り来し大地涼しかり〉という句が近くにあるから日本の神かもしれないが、洋の東西を問わずギリシア神話でもそうだ。〈風はらむ〉という言葉、なにげないが神々しい。

白く、密集して咲く〈橡の花〉。素朴な力強さのあるこの花との取り合わせもよく合っていて、遥かなるもの、野生的なものを思い起こさせてくれる。世界の始まりの神話の、力強いイメージがふくらむ。

初夏の爽やかな青空に、風をはらんだ神の服と、白い橡の花がまぶしい。

2012年5月20日日曜日

●Haiku Drive 動画配信のお知らせ

Haiku Drive 動画配信のお知らせ



Haiku Driveが、本日20日(日)15:00から特別ライブ放送を行います!

題して

SST + Haiku Drive
関悦史田中裕明賞受賞記念「SSTのごきげんいかが575」


五月の日曜日の昼下がり、関悦史、榮猿丸、鴇田智哉の3人によるユニットSSTが俳句にまつわるもろもろについて語り合います。

(SSTに関する記事 「週刊俳句」まるごとSSTプロデュース号

SSTへのお便り、質問も受け付けています。twitterでご自身のアカウントから、ハッシュタグ「 #haiku_drive」をつけてつぶやいて下さい。番組中に出来るかぎりレスポンスしていきますので、どしどしツイートをどうぞ!

過去のHaiku Driveの放送→http://www.ustream.tv/channel/haiku-drive/videos

2012年5月19日土曜日

●紙



紙くづのきらきらするや夏休み  津久井健之〔*〕

紙の音して寒禽の飛び出づる  山田露結〔*〕

雪もよひ家のかたちに薬包紙  齋藤朝比古〔*〕

空想と紙の空白鳥曇  南十二国〔*〕

パラフィン紙夏の名前を考へる  宮本佳世乃〔**


〔*〕『俳コレ』(2011年12月・邑書林)より

〔**『彼方からの手紙』第4号より

2012年5月18日金曜日

●金曜日の川柳〔小野多加延〕 樋口由紀子


樋口由紀子








おぼろ月人に隠れて跳ねてみる


小野多加延 (おの・たかのぶ) 1920~

空を見上げたらおぼろ月が出ていた。ふとうさぎのように跳ねてみたくなった。そういえば跳びはねるほどのことでもないのが、ちょっとだけ嬉しいこともあった。まわりを見渡したらちょうど誰もいない。小さく跳ねてみる。

こういうのってなんとなくわかる。別に何かあったわけでもなく、大それた理由はなくても、意味もなくにこっと笑ってみたいときとか、ちょこっとだけなにかしたいときがある。しかし、人前で急にそんなことをしたら驚かれる。びっくりされるだけならまだいいが変人扱いされかねない。

小野の川柳は人生の飄々とした味わいがある。〈住む町に羊羹屋あり老いていく〉〈ばあさんを置き去りにして蛍追う〉〈正直に笑える頃に歯が欠ける〉 「自分のなかにある人間の愚かさ、哀しさ、可笑しさなどのペーソスのある句を作りたい」とあとがきに書く。『とうがらし』(私家版 2010年)所収。

2012年5月17日木曜日

●コモエスタ三鬼30 望郷・懐旧

コモエスタ三鬼 Como estas? Sanki
第30回
望郷・懐旧

西原天気


中年や遠くみのれる夜の桃  三鬼(1947年)

超~有名句。また人気句。

性愛を遠く、望郷のように、懐旧のように、ふりさけみる感じに、ぐっと来る人が多いのでしょう。中年を迎えてみれば、これ、よくわかります。


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2012年5月16日水曜日

●マネキン

マネキン

マネキンの着る松風のようなもの  永末恵子

マネキンの言葉知らねば涼しけれ  大木あまり

マネキンが遠いまなざしして水着  西原天気

黄落の街マネキンを横抱きに  今井 聖

マネキンの肩甲骨も春惜しむ  松本てふこ〔*〕

〔*〕『俳コレ』(2011年12月・邑書林)より

2012年5月15日火曜日

〔今週号の表紙〕第264号 ダム放水 宮本佳世乃

〔今週号の表紙〕
第264号 ダム放水

宮本佳世乃



新緑が気持ちのいい季節になりました。

写真は渡良瀬・草木ダム。

近くに富弘美術館があります。

カメラをダムに向けると、すこし、気温が下がったような心地がしました。


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2012年5月14日月曜日

●月曜日の一句〔神野紗希〕 相子智恵


相子智恵








光る水か濡れた光か燕か
  神野紗希

句集『光まみれの蜂』(2012.4/角川書店)より。

個人的な好みだが、私は速度を感じる句が好きで、この句も愛唱してきた。

おそらく川辺の景ではなかろうか。修善寺温泉で見た桂川でも、奥多摩の渓谷でも、故郷の天竜川でも、山間を流れる川の上を、弾丸のように飛びまわる燕たちは、まるで「光の化身」のように見えた。燕は春の季語だが、これら春の遅い山峡で燕を見た時期はちょうど今時分で、だから私がこの句を思い出すのも、きまってこの頃なのである。

いま見ているのは日に照らされた水なのか、それとも川面に反射した光のほうなのか、それとも燕たちか。見ているものに思考が追いついていかないところに、光の速度を感じる。

この句は音もいい。「ひかる」「ひかり」「つばくら」および繰り返し挿入される「か」の音、その弾けるようなHやKの音には光の硬質さがあり、「る」「り」「ぬ」「ら」と口にこもる音には瑞々しく濡れた質感がある。

水、日光、燕たち。3つの瑞々しい濡れた光がキラキラと瞳の中に跳ね回って眩しい。それは命の光だ。

2012年5月13日日曜日

●週俳はいつも記事募集

週俳はいつも記事募集

小誌「週刊俳句がみなさまの執筆・投稿によって成り立っているのは周知の事実ですが、あらためてお願いいたします。

長短ご随意、硬軟ご随意。お問い合わせ・寄稿はこちらまで。


【記事例】

『俳コレ』の一句 〔新〕

これまで「新撰21の一句」「超新撰21の一句」を掲載してまいりました。『俳コレ』も同様記事を掲載。一句をまず挙げていただきますが、話題はそこから100句作品全般に及んでも結構です。



俳誌を読む ≫過去記事

俳句総合誌、結社誌から小さな同人誌まで。号の内容を網羅的に紹介していただく必要はありません。

句集を読む ≫過去記事

最新刊はもちろん、ある程度時間の経った句集も。

時評的な話題

イベントのレポート

これはガッツリ書くのはなかなか大変です。それでもいいのですが、寸感程度でも、読者には嬉しく有益です。

同人誌・結社誌からの転載

刊行後2~3か月を経て以降の転載を原則としています。


そのほか、どんな企画でも、ご連絡いただければ幸いです。

2012年5月11日金曜日

●金曜日の川柳〔杉野草兵〕 樋口由紀子


樋口由紀子








五十歳でした つづいて天気予報


杉野草兵(すぎの・そうへい)1932~2007

ゴールデンウイークが終った。華やかで賑やかなニュースの一方で悲しくて痛ましい事故や事件が後を絶たない。やりきれない思いを抱いている間に、画面はあっという間に次の出来事に切り替わっている。そんなニュースを聞きながら、ふとこの句が口をついて出てきた。

ラジオかテレビのアナウンサーの言葉を川柳に仕立てたのだろう。「五十歳でした」というのだから、訃報だろう。人の死を伝えたそのすぐ後に同じトーンで天気予報が続く。生も死も隣り合わせのひとコマであり、表裏である。現実の一場面をなにげなく突いて、皮肉っている。

杉野草兵は青森の地から川柳の文芸性を高めるために「川柳界の芥川賞」といわれた川柳Z賞を創設し、全国に門戸を開き、後進を育てた。〈あいつは死んだかな防波堤の右が北〉〈遺影なき葬送聖歌第二六六〉 杉野草兵集『C』(かもしか川柳文庫第21集 1989年)所収。

2012年5月9日水曜日

●蜘蛛

蜘蛛



蜘蛛の囲に蜂大穴をあけて遁ぐ  右城暮石

ぱつと火になりたる蜘蛛や草を焼く  高浜虚子

夕雲をつかみ歩きて蜘蛛定まる  西東三鬼

蜘蛛の糸一筋よぎる百合の前  高野素十

蜘蛛夜々に肥えゆき月にまたがりぬ  加藤楸邨

蜘蛛の囲のかかればすぐに風の吹く  石田郷子

父疾うに喰はれて蜘蛛の赤ん坊  佐山哲郎

蜘蛛の巣の壊れてしまふほど音痴  山下つばさ〔*〕


〔*〕『俳コレ』(2011年12月・邑書林)より

2012年5月8日火曜日

●「彼方からの手紙」第4号配信のお知らせ

「彼方からの手紙」第4号配信のお知らせ

山田露結


本日5月8日(火)より俳句通信「彼方からの手紙」第4号の配信がはじまりました。

え?

「彼方からの手紙」をご存じない?

ほら、アレですよ。

コンビニのコピー機から俳句が出てくるアレ。

今回はゲストに鴇田智哉さんをお迎えしました!

なんと、鴇田さんは謎の俳人(?)乱父氏と二人組ユニット「T&lamp」を結成しての登場です。

テーマは「音楽」。

さあ、どんなことになっているのでしょう。

ぜひあなたも「彼方からの手紙」を受け取って下さい。

受け取り場所は全国のセブンイレブン、またはサークルKサンクスです。

♪ら~ぶれた~ふろ~むかな~た~

※「彼方からの手紙」は山田露結と宮本佳世乃がコンビニのマルチコピー機を利用して配信する俳句通信です。≫http://yamadarockets.blog81.fc2.com/blog-entry-820.html


「彼方からの手紙」の受け取り方(セブンイレブン)

1.セブンイレブンへ行く。
2.マルチコピー機の「ネットプリント」を選択して予約番号を入力する(プリント料金60円)。
3.手順に従ってプリントを開始する。

予約番号34179505
プリント料金60円
配信期間5月8日(火)~15日(火)23時59分まで
配信場所 全国のセブンイレブン セブンイレブンネットプリント


「彼方からの手紙」の受け取り方(サークルKサンクス)

1.サークルKサンクスへ行く。
2.マルチコピー機の「ネットワークプリント」を選択してプリント料金60円を投入。約款を確認し「同意する」ボタンを押す。
3.ユーザー番号を入力後、手順に従ってプリントを開始する。

ユーザー番号Q786BZYX9G
プリント料金60円
配信期間5月8日(火)~16日(水)05時00分まで
配信場所 全国のサークルKサンクス サークルKサンクスネットワークプリント
リンク

2012年5月7日月曜日

●月曜日の一句〔佐藤郁良〕 相子智恵


相子智恵








代田いま星の呼吸をしてをりぬ
  佐藤郁良

句集『星の呼吸』(2012.4/角川書店)より。

夏が立ち、田植前の水をたたえた代田を見かけるようになった。すでに苗が植えられた田もちらほらとある。

代田のトロリとなめらかな泥の質感は、稲という主役の生命はまだなくて静かな状態ではあるものの、すでに息づいているように見える。

掲句は夜の代田である。街灯の少ない、星がよく見える田園の夜だ。泥の水田はてらてらと、月明りに照らされて光っている。目を上げれば初夏の星と月もまた、水気を含んでぼんやりと光っている。天も地も一様に、水の潤いに満ちているのだ。

〈星の呼吸〉に、そんな天と地の瑞々しい呼応が思われてくる。叙情的で美しく、スケールの大きな風景句だ。

2012年5月6日日曜日

〔今週号の表紙〕第263号 軍鶏 常盤優

〔今週号の表紙〕
第263号 軍鶏

常盤優



春休みのちびっこ動物園は、親子連れでにぎわっていた。モルモット、ハツカネズミ、ひよこが人気物だ。

カメラを抱えてぼーっと佇んでいて、ふと足元を見るとこいつがいた。いかつい面構え。ぶっとい足。しかも、でかい。近くにいた親子連れは視線釘付けのまま、かたまっている。彼はカメラ目線をキープして離れようとしない。黒光りする背中をなでてやったら、ぺったり五体投地した。

馬も軍鶏も生まれつき性格のおだやかなものがあるという。そういう個体は競走馬や闘鶏にはもちろん向かず、食用になるか愛玩用になるのだそうだ。大地も日差しも軍鶏の背中もあたたかい一日だった。


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2012年5月5日土曜日

●これなら彼女がいても大丈夫 上野葉月

これなら彼女がいても大丈夫

上野葉月


やっぱりプリキュアはふたりが基本だと思う(俳人らしく時候の挨拶)。

なにしろ女児向けの番組なのだから、バトルシーンにばかり力を入れず、ふたりの女の子がねちねちゆりゆり人間関係に悩みながら半年保たせて、ネタが尽きてきたところで追加的に戦士を増やし残りの半年保たそうってぐらいじゃないと、プリキュアの名にふさわしくないように感じられて仕方がない。一昨年以来、高校生プリキュア!前期高齢者プリキュア!小学生プリキュア!ときた以上、今期はついに後期高齢者プリキュア登場か!?

と、はらはらどきどきするのがプリキュアの醍醐味ではなかっただろうか。

それなのに今期は初めから五人もいる上に五人とも中学二年生クラスメイトで全員ボケキャラ(それって本当に画期的なのか?)しかも中二にもなってノーブラだなんて…、イカイカイカリン、いかんでゲソ(抑えきれない魂の叫び)!!

閑話休題。

少し前のことになるが、ある雑誌に載ったというアンケートをインターネットのサイトで見た。

質問は「貴女は恋人(or婚約者or配偶者)が美少女フィギアをコレクションしていることを知ったら別れますか?(というような内容)」で、結果は半数以上の回答者が別れないと答えている由。ちゃんとパーセンテイジも載っていたように思うが残念ながら細かい数字は失念してしまった。

この手の調査をみるとライターが七人ぐらいの周囲の二十代女性に聞いただけでそれをもとに記事を書いているんじゃないかといつも疑ってしまうのだが、どうなんでしょうか。

私が見たサイトではこの半数以上の別れないという回答が意外に大きな数値として扱われている印象だったけど、私は特に別れないという回答の割合が多いとは思わなかった。

オタク系女子はパートナーがフィギアとか集めていても、むしろ自分の同人誌コレクションを捨てられたりする心配がないので、そういう趣味を歓迎するような気もする。

オタク系女子なんて言うと際立って特徴的なそういう人種がいるような気もしてくるけど、一般的に女性は男性に比べれば概ねインドア派だから、オタク的な行動様式や心性は女性一般の中で特に珍しいわけではないと思う。言い換えれば女性一般は男性一般にくらべればオタク率は高いのでオタク女性は一般人に紛れ込んでいて区別がつきにくい。
世界中どこへ行っても刑務所の人口比は圧倒的に女性が少ないし(あんまり関係ない話)。

オタクとか腐女子なんて言葉の無い時代からイラストを書くタイプの女性の知り合いが多かったけど、傍から見る分には彼女たちはパートナーの趣味には寛容な印象があった。

思い出してみると私は長年生きてきたが彼女なんてものができた試しがないので(なんか書いていて死にたくなってきた)、彼女に嫌われるというのが実際にはどういうことかよくわからない。

そういえばかつて「このマンガが好きだと口にすると必ず彼女(or婚約者or配偶者)から嫌われてしまう」という噂される有名作があった。
ヤングユーに連載された『Papa Told Me』がそれである。

TVドラマ(私は未見)にもなった人気作なので知っている人も多いかも知れないが、内容を要約してしまえば奥さんを早く亡くした男やもめの小説家が忘れ形見の小学生の娘(知世)を男手ひとつで育てている話である。

このマンガをひとたび好きだと言ったら彼女から口も利いてもらえないほど退かれてしまうということすらあるらしい。友達の友達から聞いたような話なのでさほどアテにならないけど。

何年も前にマンガ喫茶で向学のために単行本を読んだが、それなりに面白くて楽しめた。でも全巻読まなかったところを見るとあんまり自分の好みではなかったのかも知れない。ただ酷い嫌悪感は無かったことは確かだと思う。漠然とついて行けないなあという感触は残った。父親の職業が自宅勤務者という辺りはうまいなと思う。

このマンガに関して「娘はセックスをしなくても許してくれる妻である」という身も蓋もない意見があることを知ったのは読んでからしばらく経った頃だった。「娘はセックスをしなくても許してくれる妻である」、う~ん、世の中には酷いことを言う奴も居たものだ。

知り合いの***書店の編集者はいい歳して(私と同年)いまだに女性から「バカッ!」とか「あんたなんか大っ嫌い!!」とか言われることがあるらしいが、よく考えてみると私は世界中のありとあらゆる人間から「バカッ!」とか「あんたなんか大っ嫌い!!」とか言ってもらった経験がない(書いていて本当に死にたくなってきた)。

そんなことをつらつら考えているうちに昨今の子育て系とも呼べるタイプのマンガの中でこれを好きだと言っても彼女から嫌われる心配のまったくなさそうなものがあったのを思い出した(今回も本題に辿り着くのにやたら時間が)。

Frapper連載中の『高杉さん家のお弁当』がそれだ。このマンガなら好きだと口にしても彼女から嫌われないかもしれない(誰か実際に試してみてくれるとうれしい)。

オーバードクターの草食系(?)三十男が孤児になった従姉妹(十二歳)を突然引き取って育て始めることになる話(以下ネタバレ注意です)。

正直なところ最近似たような設定がマンガ界隈では散見されるのも確か。子育て系(?)静かなブームと言ったところだが『高杉さん家のお弁当』は他のものに比べて一味違う(はは、うまいこと言った)。

連載のかなり早い段階から従兄妹同士なら婚姻可能であることが(ちょっと)露骨に明言されているし。さらに追い討ちをかけるようにのちには実際の血縁のないことまで判明する。

高杉くん(ハル)はかなりさえない男として登場するが連載が進むうちにさらに残念な部分も明らかになっていく。同時に職業的には真摯というか真面目な姿勢でなおかつ常に今後の進路(いわば学者としての就職先)の不安を抱えているあたり(おそらく)読者の好感度は高い(かもしれない)。ところで私って地理学と民俗学の区別がうまくつかない。

当初中学一年になったばかりだった久留里もついに高校生になってしまうし、小坂さんや丸宮兄の活躍(?)により子育てものというより大学の研究室を舞台とした恋愛模様といった色彩が強くなってきている。いやむしろ小坂さんにはもっともっとぐるぐるしてほしいのだけど。

そういえば第30話で高杉くん(ハル)への好意をあろうことか久留里相手に告白するという暴挙に出る小坂さんはいつも以上にぐるぐるしているかと言えばそうでもないような気がする。

いまどき家族みんなでウルトラハッピーにスマイルできる漫画というのは珍しい。それに登場するお弁当のレシピは秀逸で弁当生活を送っていない人間でも自炊する上でとってもためになる。ひとつぶで二度も三度もおいしいお得な漫画(もちろん、うまいこと言ったつもり)。

さらに特筆すべきはこの作品にそこはかとなく横溢する名古屋臭である(形容矛盾)。

札幌東京大阪が舞台だったらこのマンガはこれほど幸福なものにならなかったろう。

あの黄昏の街、センチメンタルシティ名古屋。
その名がひとたび口にされると青年の胸を甘美な憧憬で満たす名古屋。
喫茶店でモーニングサービスを頼むとラー油をはじめとするソフトドリンク飲み放題の名古屋。
潜水艦と両親以外にはなんでも味噌をつける名古屋。
日本のへそ和のスタンダード名古屋。
すべての夢が幻を形作る名古屋。
バス初乗り200円の名古屋。
日本に名古屋をありがとう(八百万の神に感謝!)。

2012年5月4日金曜日

●金曜日の川柳〔窪田久美〕 樋口由紀子


樋口由紀子








草上の食事 なくしたものばかり


窪田久美 (くぼた・くみ) 1929~

「なくしたものばかり」というのはよく聞くフレーズで、よくある感慨でもある。しかし、「草上の食事」とは意外な組み合わせである。マネの「草上の食卓」を鑑賞してのことかもしれない。

子どもの頃の恒例の行事を思い出した。れんげ草は良い窒素肥料になるらしく、当時田植えを行なう前の水田に一面咲いていた。れんげ草をすきこむ前の日曜日に村の子ども全員で、かけっこ、なわとび、普段入ることができないれんげ畑で思い切り遊ぶのだ。それは本当に楽しかった。そして、なにより一番の目当てはれんげ草の上に茣蓙を敷いて食べるお弁当であった。

私の子ども頃はまだまだのんびりとして、のびのびとした時代であった。ときどき無性になつかしくなる。あの頃からなくしたものは確かにあまりにも多い。

窪田久美は「ふあうすと」で時実新子の好敵手であった。河野春三の「風」でも活躍していたが、のちに俳句に転向し、「青玄」の編集人を務めた。『風』(1977年)収録。

2012年5月3日木曜日

●2番の独居房 中嶋憲武

2番の独居房

中嶋憲武


眠れない夜。風が窓をたたき、手招きして誘い水を撒く。眠れない夜と泉谷しげるの歌を歌う。

眠れない。

たとえ君が目の前にひざまずいてすべてを許してほしいと涙流してもと、オフコースの眠れぬ夜を歌う。

眠れない。

帰ってきて自作のカレー(2日め)食って20時に寝てさっき起きた。

仕方がないので、コンビニエンスストアーへ今度書かなければならぬある文章のために、コピーを取りに行く。隣の雑誌のコーナーにあった週刊文春。小島慶子、小沢一郎、ポール・マッカートニー、木嶋佳苗のマンガ、佐野優子のグラビアなどにつられてnanacoにて購入。

ポール・マッカートニーが80年に来日したとき大麻所持で捕まり、留置場でイエスタデイを含め4曲もリクエストに応え、アカペラで歌ったという記事。この記事によると、ポールは2番の独居房に入っていたという。YMOの「ナイスエイジ」という曲のなかで
「ニュース速報、ニュース速報、22番は今日で2週間経ってしまったんですけど、彼はそこには居られなくて、花のように姿を現します」
とナレーションが曲間に入る。この22番はポールが入っていた独房の番号だと解説されていたので、てっきり22番だと思っていたのだが、2番であったのか。それともどちらかが記憶違いなのか。ま、32年も前のことなんで今となってはどっちでもいいんだけれど。

そういえばNHKの人形劇「ネコジャラ市の11人」で、ガンバルニャンの婚約者(結局、婚約解消に至る)ミケ・ランジェロ姫は三毛猫だったなあとランちゃん(三毛猫。本名ミケランジェロ)を見てて思い出す。

2012年5月2日水曜日

●Yesterday

Yesterday

椿落ちてきのふの雨をこぼしけり  蕪村

蜆汁きのふ大火のありしかな  久保田万太郎

きのふ近江けふは吉野の花衣  福永耕二

敗れたりきのふ残せしビール飲む  山口青邨

今日も干す昨日の色の唐辛子  林 翔

あら何ともなや昨日は過ぎて河豚汁  芭蕉

凧きのふの空のありどころ  蕪村


2012年5月1日火曜日

〔今週号の表紙〕第262号 ゴング 上田信治

〔今週号の表紙〕
第262号 ゴング

上田信治
・文 佐藤文香・写真


今週号の表紙写真は、週刊俳句5周年記念オフ会で、お祝いの歌を歌ってくれた、中田一子さん・前田達彦さんご持参の楽器です。

ゴングという白文字が、タイトル文字と響き合って、チャーミングです。この文字が、なんのために必要なのかは聞き漏らしましたが。

前田さんの本業はイラストレーターで、しばらく前まで、本阿弥書店の「俳壇」で連載されていました。前田さんは、上田の漫研の後輩で、なぜか音楽家の中田さんと結婚しました。

今年のオフ会は、前回のように盛りだくさんにはならないけど、なんかできないかな、と思っていて、ふと、中田さんの歌を思い出したわけです。「あ、いけそう」と。

中田さんのレパートリーは、たいへん幅広いのですが、相談しているうちに、ガムラン+民謡を中心に、となりました。


「郡上踊り かわさき」(替え詞・上田)

週刊ナー 俳句は 
天気さんが 作った〜
穴もあけずに 五周年

五周年 アソンレンセー

人がナー 集まる
インターネット〜
またも会いましょ 日曜日

日曜日 アソンレンセー


「お立酒(おたちざけ)」

お前お立ちか
お名残 惜しい
なごり情けの
くくみ酒

またも来るから
身を大切に
流行り風邪など
ひかねよに

目出度嬉しや
思うこと 叶うた
末は鶴亀
五葉の松

「お立酒」は、就職を機に、今春で週刊俳句運営スタッフを卒業された生駒大祐さんへの、はなむけとして歌ってもらいました。「目出度嬉しや 思うこと 叶うた」のところで感極まり、歌のあと、生駒君と抱き合った上田でしたが、その場面を撮りそこなった佐藤さんが、あとで二人にもう一度ポーズさせたことは秘密です。

つづく「575歌」と仮に題した曲は「俳句はメロディに乗りませんかねえ」という、上田の無茶ぶりに、応じて下さった中田さんのオリジナルで、4848の繰り返しで進行するガムランのメロディに、俳句をのせて歌い上げるというものでした。ほんとに無茶ぶりだったけど、いい演奏でした。

「575歌」の動画はPHOTOアルバムでご覧になれます。



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