西原天気
※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。
貧困、貧窮、貧苦、貧乏。似たようでいて、それぞれすこし違う。
例えば、社会指標として用いられるのは「貧困」で、「日本の相対的貧困率はG7中でワースト2位」との報道を今年見た気がする。「相対的」というのはつまり、収入がその国の多数の平均(いいかげんな説明ですみません。中央値ってこった)の半分に満たない人の割合で、貧富の格差を反映していると思ってもいいのだろう(ちなみにワースト1位は米国)。貧窮からは「貧窮問答歌」が思い浮かび、貧苦はこのところあまり耳にしない。いずれにしても、社会にとって個人にとって深刻な状況。という書きぶり自体がひじょうに無責任に愚かしく、イヤになるが、まあ、それはともかく、貧乏という語は、どこか明るい。それは「び bi」「ぼ bo」といった音のせいだろうと思う。
正月のビンボーリンボーダンスなり 広瀬ちえみ
正月を迎えるにあたっては、すこしくらいは金子(きんす)の余裕が欲しいが、ままならないこともある。人もいる。状況を直視するなら精神の落ち込むに任せるのもいたしかたないことだが、この句は、なにを思ったか、リンボーダンス。あの、脳天気な打楽器リズムを伴奏に、身体をのけぞらせるダンス。これも、確実に、ひとつの暮らし方だし、生きる態度であると思う。
でも、なんか寒い。リンボーダンスが半裸のイメージだから? だけじゃないと思う。貧乏は寒いのだ。肌感覚として、寒い。そういえば「素寒貧」という類義語もあって、こちらは「ぴ pi」音の効果があってかなくてか、深刻の一歩手前で、いくぶんロマン的でもある。
ここでふと、リンボーダンスの起源に関心が向かう(貧乏暇なし、じゃなくて、貧乏暇だらけ)。手軽なところでウィキペディアによれば、「西インド諸島のトリニダード島に起源を持つダンス」だそうで、英語の limber(体を柔軟にする)が命名の由来。limbo(辺獄)じゃないんですね。魂じゃなくて、あくまで身体のダンスなのです。
で、さらに、この句のことに話を戻せば、貧乏な人もそうじゃない人も、ビンボーダンス、やってみたらいかがでしょうか。正月の畳の上で。
こう言っても、実際にやる人、いないでしょうけどね。
それでは、みなさま、良いお年を!
掲句は広瀬ちえみ『雨曜日』(2020年5月/文學の森)より。
●