樋口由紀子
石けん箱と詩人銭湯の隅にいる
堀豊次 (ほり・とよじ) 1913~2007
「石けん箱」と「詩人」に似ているところなどなにもないと思っていた。二物をぶつけての詩的飛躍でもない。掲句を読んで、ああそういうことなのかと気づいた。ちょっとした、一風変わった、が、たしかにと思う共通項を現実の場面で見つけた。「詩人」を「石けん箱」と一緒にユニークに再生した。
湯のいきおいに流されて銭湯の隅に転がる石けん箱。たしかにあるある。誰とでも気安く打ち解けられず、すぐに世間話の輪に入れず、銭湯の隅でだまって湯につかっている詩人。たしかに居そうである。詩人とはどういう人なのかはなかなか言えないが、詩人の実在感と一面をうまく言い当てている。作者自身のことのような気がする。〈少年の捜すものつぎつぎ消えてゆく〉〈肉箸にはさみその時敵はなし〉〈眠っている妻に埴輪の口がある〉<妻と見し映画は五指に みたざるか〉
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