2022年12月5日月曜日

●月曜日の一句〔小川軽舟〕相子智恵



相子智恵






便箋はインクに目覚め冬の山  小川軽舟

句集『無辺』(2022.10 ふらんす堂)所収

まっさらな便箋に万年筆がインクを落としていく……つまり、文字が書かれていく。一枚の白い紙だった便箋は、万年筆のインクの滲みや掠れによって、一文字ずつ、文字が書かれたところから静かに眠りから覚めていく。何と美しい想像だろうか。便箋とインクの色は何色だろう。私は便箋は白、インクは藍色を思った。

取り合わせは〈冬の山〉。うっすらと雪が積もっているのかもしれない。山の静謐さが便箋と響きあう。今は静かな冬山はしかし、「山眠る」という季語の通りに、山に棲む生き物たちを静かに眠らせ、自らも眠りながら「生きて」いる。

便箋がインクに目覚めていったように、この冬山も春が来ればひとつずつ、木々や草花、虫や動物たちの命を目覚めさせていくのだ。

静謐な冬を、そしてその後には春の息吹が確かに巡ってくることを、無生物である紙とペン、冬山という生命を感じさせつつ眠るもの。このふたつの景のあわいで表現した、美しい一句である。

2022年12月2日金曜日

●金曜日の川柳〔中内火星〕西原天気



西原天気

※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。



ボクがダメになるまでの短い歴史  中内火星

たまに耳にする「人に歴史あり」というフレーズはテレビ番組名が発祥だそうで、この言い方にむず痒くなるのは、その歴史の「結果」として、りっぱな人間像が大仰に提示されることが前提となっているからだろう。たしかに人にはみなその人の歴史があるのだが(歴史皆無なら、むしろ神話的で凄い、のだけれど)、誰もが他人様に誇れるような歴史と現在というわけにはいかない。

その点、この句は、〈ダメになる〉というのだから節操がある(ダメになる前はダメじゃなかったわけか、という意地悪はさておき)。

だいたいにして、〈ボク〉とカタカナ書きの自称の時点で、この人、かなりダメだし。

(念のために言っておくと、私が言っている「ダメ」には、かなりの愛情と好感がこもっている)

でもって、〈短い歴史〉だ。それなりに長い、というのではない。またたくまにダメになっちゃったわけで、この人、作中主体だか作者だか、まあ、なんというか、もう、かなりダメです。

『What's』第3号(2022年10月25日)より。

2022年12月1日木曜日

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2022年11月30日水曜日

〔俳誌拝読〕『ユプシロン』第5号(2022年11月1日)

〔俳誌拝読〕
『ユプシロン』第5号(2022年11月1日)


A5判・本文28ページ。同人4氏の俳句作品各50句を掲載。散文etcはなく、小句集の集合のようなおもむき。

三月やノコギリ屋根を雨流れ  岡田由季

雨のカンナ映画の中に人を封じ  小林かんな

文鳥に冬晴れの窓ありにけり  仲田陽子

冬銀河イヤホンで聴く弦の音  中田美子

(西原天気・記)






2022年11月28日月曜日

●月曜日の一句〔生駒大祐〕西原天気



西原天気

※相子智恵さんオヤスミにつき代打。




立木みな枯れて油のごとき天  生駒大祐

見上げた空が油のようなのだから、晴れているはずはなく、雨でもない、曇っているのだろう。地上の木々がすべて枯れ、さむざむとした景のなかに、ひとり読者としていると、頭上・天上の油が油膜に思えてきて、すると、ここが水の中のような気になってきた。つまり、句集名にある「水界」。

この句があるから、この本は『水界園丁』なのだと、誰も(作者も読者も)思わないだろうけど、私は思っている。

きょう2022年11月28日の空も、ちょうどこの句の感じ。

加うるに、空ではなく「天」という叙述が、上記の感興を生起せしむるにふさわしく、また、この句の何か、おそらく口調・口吻・語りぶり、つまりは響きがもたらす、水中の無音のようなおもむき。

『水界園丁』(2019年6月/港の人)所収。