2026年5月20日水曜日

●西鶴ざんまい#96 浅沼璞

 
西鶴ざんまい #96
 
浅沼璞
 

  山吹しぼむ岸の毒水    打越
 神軍春の丸雪におどろかせ  前句
  小車の錦八重の幕串    付句(通算78句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)

【付句】
三ノ折・裏14句目。綴目。雑(其場の付)。
小車の錦(をぐるまのにしき)=牛車(ぎつしや)をデザインした大和錦。
幕串=幕を張るための支柱。

【句意】
(伊勢神宮の)小車錦の帳(とばり)、(それを張りめぐらすための)八重の幕串。

【付け・転じ】
神軍の勝利を伊勢の神によるものと取成し、その陣営の具体的な描写へと転じた。
※内外宮(うちとのみや)伊勢 ― 神風(類船集)。

【自註】
かけまくもかたじけなしや、小車の錦は伊勢太神宮の*御戸帳といへり。此ひかり、日本にかゝやき、是を其時の**陣幕にして付よせたり。

*御戸帳(みとちやう)=神仏の厨子などに垂らす帳。  
**陣幕(じんまく)=陣屋に張り渡す幕。軍幕。

【意訳】
言葉に出して言うことさえも恐れ多いけれども、小車の錦は伊勢の皇大神宮の神前の帳に用いられているという。この御威徳の光は日本中にかがやき、これをその戦時の陣幕に思いなして付け寄せたのである。

【三工程】
(前句)神軍春の丸雪におどろかせ

  伊勢太神宮ひかりかゝやき 〔見込〕
     ↓
  伊勢の陣幕ひかりかゝやき 〔趣向〕
     ↓
  小車の錦八重の幕串    〔句作〕

勝利は伊勢の神の御威光よるものと取成し〔見込〕、〈戦場はどんな風景か〉と問うて、陣幕も光りかがやくとし〔趣向〕、その錦や幕串をクローズアップした〔句作〕。


【テキスト考察】
『訳注西鶴全集2』ではこの付句に関し、〈八重は備への十分を現はすと共に、八重の潮路を兼ねて示したものか〉と問うだけでなく、〈こゝは神軍で、想像上のものであるから、海上の陣幕と見るべきであらうか〉とも問うている。となれば、船の描写は一切ないから「幕串」は海から突き出て八重に屹立したものと解せる。かなりSFチックな光景だ。

そういえば西鶴には高屋城跡を詠んだ「月しろのあとや見あぐる高屋ぐら」という発句もあった。月の出の空が白む頃、城跡の空を見上げると、かつての高櫓が……といったタイムスリップ詠である。

2026年5月19日火曜日

【新刊】 小津夜景『漢詩の手帖 書庫に水鳥がいなかった日のこと』

【新刊】
小津夜景『漢詩の手帖 書庫に水鳥がいなかった日のこと』

2026年5月7日・素粒社




2026年5月18日月曜日

【新刊】神野紗希『俳句は肯定の文学 口語・他者・偶然』

【新刊】
神野紗希『俳句は肯定の文学 口語・他者・偶然』

2026年4月1日・朔出版




2026年5月17日日曜日

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これはガッツリ書くいていただくのはなかなか大変です。それでもいいのですが、寸感程度でも、読者には嬉しく有益です。



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2026年5月15日金曜日

●金曜日の川柳〔西田雅子〕暮田真名



暮田真名





ある夏の白いページに二泊する  西田雅子

みじかい滞在である。「白いページ」はホテルの一室のよく磨かれた床のようでもあり、洗い替えられた清潔なシーツのようでもある。

「二泊」という単語選びは、「白」を含む「泊」という漢字の上でも、「ハク」という音の上でも、「白いページ」のまばゆさを確かなものにする。夏の強い太陽光の照り返しが、目に見えるようだ。

ところで、白いページとはどのようなものだろう。単行本、文庫本ならば、乱丁本かもしれない。「ある夏」だから、アルバムや日記の可能性もある。その場合は、記録することがなかった、あるいは記録のための時間がなかった、宙に浮いた期間である。いずれにせよ、白いページは人間の作為から解き放たれて無防備だ。そこを気に入った何者かが、すこしのあいだ寝泊まりをして、やがて去っていく。長居をしないところもいい。

白いページは開かれたまま、次の訪れを静かに待っている。