
まつりぺきん
大丈夫かと昔の空を持ってくる 小原由佳
「大丈夫か」という気遣いの言葉とともに、その人が持ってくるのは「昔の空」。
かたちのない空を、まるで腕に抱えて運べるもののように扱うところに、この句の不思議な手触りがあります。
その空は、相手の記憶の中に残っている、昔の主体の姿なのでしょう。
あるいは、いまを生きる主体を慰めようと運んできた、二人がかつて見上げた空なのかもしれません。
過去に主体を支えていた何かが、今も変わらず力になると信じて、その人は、わざわざ持ってきてくれるのです。
時は流れ、主体も当時のままではありません。
「大丈夫か」という気遣いはまっすぐ温かいのに、その宛先は、目の前にいる現在の主体からわずかにずれている。
そのずれには戸惑いや切なさも滲み、だからこそ、時を越えて届く優しさがよりいっそう愛おしく感じられます。
「昔の空」を受け取ることは、かつての自分を相手の記憶ごと受け取ることでもあるのでしょう。
少しずれた気遣いの中に、失われた時間と、なお残り続ける親愛を感じさせる一句です。
「反対側の窓」(2022)より。
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