西鶴ざんまい #99
浅沼璞
伽羅割の捺忘れ行く野は暮て 打越
初夜にかならず燃る恋づか 前句
外枕憶えなき身を祈りつめ 付句(通算81句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】
名残ノ折・裏3句目=恋。
外枕(ほかまくら)=仇枕(日本古典読本Ⅸ)。仇寝(あだね)。仮初の契り。
【句意】
不倫の憶え無き(人妻の)身を、祈りを込めて呪い殺す。
【付け・転じ】
前句の鬼火の原因・理由は「呪い殺された潔白な妻の恋情だった」という後付(うしろづけ)・逆付による転じ。
【自註】
爰の付けかたは、人の妻女を、*外の心ありけるやうにうたがひ、其の夫の中をさくたくみに、妾女(てかけ)などが悪心にて神をいのりて**牛の時まいり、山伏をたのみ、其の命を取りける。世をうせし女の***おもはく、夜毎に通ひ、魂の火と成りし****心行也。
*外の心=脇心(日本古典読本Ⅸ)。〈是がすきにて身に替へての脇心〉(好色五人女・三)。浮気心。
**牛の時まい(ゐ)り=丑の刻参り。
***おもはく=恋の思わく。恋情。
****心行(こゝろゆき)=内容主義の心付(前句に同じ)。
【意訳】
ここの付け方は、人の本妻を浮気心のあるように疑い、その夫との仲を裂く計略として、妾などが悪心から神に祈り、丑の刻参りやら、山伏に依頼しての調伏やらをし、その命を奪った。で、この世を去った本妻の恋情が夜ごとにこの世に通い、鬼火となったという心持ちの付け方である。
【三工程】
(前句)伽羅割の捺忘れ行く野は暮て
世をうせし妻の思はく通ひきて 〔見込〕
↓
悪心の妾女に命取られける 〔趣向〕
↓
外枕憶えなき身を祈りつめ 〔句作〕
前句の鬼火の原因・理由を「呪い殺された妻の恋情」と見込み〔見込〕、〈誰に呪い殺されたのか〉と問うて、悪心の妾女と設定し〔趣向〕、妾女が潔白な本妻に罪を着せて呪い殺すという文脈でまとめた〔句作〕。
【テキスト考察】
『新編日本古典文学全集61』には〈「恋づか」の「燃る」原因を付けたもので、このあたりやや親句付となっている〉とあるが、すでに前句が打越の原因を探った後付・逆付であった。
つまり打越の鉈を忘れたその原因を「地元の言い伝えの鬼火を恐れたから」とした前句の逆付を受け、更にその鬼火の理由を「呪い殺された潔白な妻の恋情」と逆付を以て転じたわけである。
となれば転じは効いており〈やや親句付〉という見方は腑に落ちない。また自註文末の心行(元禄疎句体)という言表を鑑みても〈やや親句付〉とは言い難い。さらに恋句なのだから恋の範疇での付合は当然ともいえる。
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