
西原天気
花瓶から足をゆっくり抜いて秋 湊圭伍
花瓶に足の入った状態は、現実の日常生活ではなかなか経験も見聞きもできないが、1960年代に隆盛をきわめた米国アニメ、例えば、ハンナ・バーベラ・プロダクションのドタバタ・アニメでは馴染みのある出来事。ただし、その場合、スピード感たっぷりに引き抜くので、「スポン」と軽快な音響効果を伴ったりしていて、この句の《ゆっくり》とは趣が違う。
私たちはもうオトナだし、それになんといっても《秋》なので、猫のトムが鼠のジェリーの眼の前でダイナミックこのうえなく足を抜くのとは、わけがちがう。
まあ、《ゆっくり》のほうがよほど異常、というのは現実を離れてファニー、スペシャルで不可解な瞬間という意味なのだけれど、それはやっぱり、川柳のひとつの側面なのだろうなあ、と。
掲句は湊圭伍川柳句集『サントメ・プリンシペの蓋』(2026年4月28日/マルコボ.コム)より。
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