西鶴ざんまい #90
浅沼璞
儒の眼より妾女追出す 打越
八徳を何のうらみに喰割れ 前句
鴻の巣おろす秋の夜の月 付句(通算72句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】
三ノ折・裏8句目。 恋離れ。 秋=月の定座の二句引き上げ。 鴻の巣(こふのす)=コウノトリの巣(高木や大寺の棟瓦などに作られる)。
【句意】
コウノトリの巣を(木から)おろす秋の夜の月。
【付け・転じ】
食い裂かれた八徳を、コウノトリの巣材と見なし、恋から転じた。
【自註】
惣じて、梢の鳥、巣に、ちり塚のちりの中より、文反古(ふみほうぐ)あるひは落髪(おちがみ)、わけもなきさま”/\を集めける。中にも*大鳥の巣には、帯、たすき、洗ひぎぬの片袖などかけ来たりて、人に迷惑いたさせける。
*大鳥(おほとり)=コウノトリの俗称。
【意訳】
だいたい梢の鳥は、ごみ溜めの中から、紙屑あるいは頭髪、どうでもよい様々なものを巣に集めてくる。わけてもコウノトリの巣には、帯、襷、洗濯物の片袖などかっ攫って来て、人に迷惑をかける。
【三工程】
(前句)八徳を何のうらみに喰割れ
大鳥の巣に帯・襷など 〔見込〕
↓
高き梢の巣をおろすなり 〔趣向〕
↓
鴻の巣おろす秋の夜の月 〔句作〕
コウノトリが巣材として人の衣服を食い裂いたと見なし〔見込〕、〈どう対処するのか〉と問うて「巣をおろす」とし〔趣向〕、月の定座が近いので、視界のきく満月の晩とした〔句作〕。
【テキスト考察】
『訳注西鶴全集2』によると、巣は「樹の命を害する」そうです。だから巣をおろすわけで、さらに「昼間は親鳥が怒つて人に危害を及ぼすから、これを避けるため夜する」とあります。とりわけ満月の晩なら視界もきくことでしょう。
ところで『新編日本古典文学全集61』では「鴻の巣」を俳言と明記しています。やはり身近な世俗の言葉ということなのでしょう。かたや下七「秋の夜の月」は、〈秋の夜の月にこころのあくがれて雲ゐにものを思ふころかな/花山院〉などがあるように歌語と解せます。とすれば、歌語/俳言という雅俗の取合せになっていると解せそうです。
そういえば芭蕉にも〈鸛の巣もみらるゝ花の葉越哉〉の発句があります。〈鸛(鴻)の巣〉の俗と、花(山桜)の雅との取合せかと思われます。
●


