
まつりぺきん
つまらない物を分母に持ってくる 丸山進
「何かを分母に持ってくる」は、数や式を分数線の下へ置く計算上の言い方です。
頭の中に一本の分数線が引かれ、その下へ「つまらない物」が運び込まれます。
ところが、線の上、分子が何なのかわかりません。それで何を割ろうとしているのでしょう。
さらに、「つまらない/物を」と、音数上の切れ目が形容詞と名詞のあいだに入ります。
上五の「つまらない」は、何をそう評しているのかをいったん宙に浮かせますが、「つまらない物」となると、贈り物を差し出すときの定型句を呼び寄せます。
「つまらない物ですが」は本当につまらない物を渡しているわけではなく、最初から小さな嘘を含んだ謙遜の決まり文句。
言葉の額面と本心とのずれまで、分母に置かれているようです。
答えの大きさを決めてしまう分母はあっても、線の上は最後まで空白のまま、割り切れるのかも分からない。
計算不能の式だけが、整った五七五のなかに残るのです。
『アルバトロス』(2005)より
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