相子智恵
病む夜の百合の重さを一人吸う 対馬康子
「草いきれ」(「俳句」2017.8月号 角川文化振興財団)より
誰かからお見舞いで手渡された百合の花か、あるいは自分で飾ったのかもしれないが、昼間は一人ではなく、誰かといたのだろう。〈一人吸う〉には、言外にそのような一日を想像させる。
夜、ベッドに横たわっている病気の私に、百合の強い香りが部屋中に満ちている。〈百合の重さを一人吸う〉にハッとする。ここに描かれているのは、百合の香りの重さなのである。香りに重さがあるとするなら、百合の香りは確かに重い。
香りの重さが病むことに重なって、欝々とした気分をもたらしている。ただ、それだけではなく、や行の音の繰り返しの幽玄な響きによって、詩的な美しさが感じられてくる句である。
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