2018年2月8日木曜日

●木曜日の談林〔井原西鶴〕浅沼璞



浅沼璞







皺箱や春しり㒵に明けまいもの 西鶴

『犬の尾』(天和2年・1682)

言うまでもなく「春」は旧暦の新春。前に書いたように、当時の年齢は数え年で、元旦はみんなの誕生日。とはいえ人生50年という時代、41歳を過ぎればハッピーバースデイトゥーユーってわけにはいかない(この年、西鶴も41歳)。

皺箱(しわばこ)とは、皺のよった紙とか皮とかをはった小箱で、浦島伝説の玉手箱のイメージにひっかけてある。だから「年が明けてまた老いる」ってのと「玉手箱を開けて皺だらけになる」ってのが「明け」「開け」と重なる。知ったかぶりのドヤ顔で玉手箱をあけた浦島を、すでに皺のよった西鶴がおちょくってる感じだ。あけなきゃいいものを、年の瀬も皺箱も……。

そーいえば談林期の芭蕉にも〈年は人にとらせていつも若夷〉って句があった。これは夷(恵比須)さまをおちょくってる。やるね、芭蕉も。

ちなみに初出の『犬の尾』は天和2年(1682)戌年の大坂談林による歳旦発句集。人をおちょくった句がワンさかある。

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