2021年10月27日水曜日

西鶴ざんまい #17 浅沼璞


西鶴ざんまい #17
 
浅沼璞
 

 子どもに懲らす窓の雪の夜     西鶴(表八句目)
化物の声聞け梅を誰折ると       仝(裏一句目)
『独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
 
 
 
雪(冬)から梅(春)への季移りによって雪中梅を詠んでいます。
 
また初裏の折立(一句目)なので表のタブーをいきなり破っています。
 
ごらんのとおり「化物」という物騒な言葉がチョイスされてますね。

これは連歌の時代から「異物の付け」とされてきたもので、たとえば二条良基の『連理秘抄』(1349年)には「常に用ゐざる所の鬼風情の物也」と説明があります。
 
とはいえ(ネタバレ覚悟でいえば)、ここでの「化物」は下女が扮しており、「異物」の度合は低いのですが。

 
句意は「化物の恐ろしい声を聞け、梅は誰が折ったのだぁ、と」といった感じでしょうか。
前句の子どもが貴重な雪中梅を折り、それを懲らしめるため、母親が下女に「化物」役をさせ、おどしているという設定です。

自註を抜粋します。
「雪中の白梅……世にめづらしき折節、知恵のなき童子、心まかせに手折り捨てしを深く惜しみて、下女などおそろしき姿にして色々の作り声させて、母親の才覚にて是をおどしける……」

じっさい絵巻には、母親に抱きつこうとする童子と、それにせまっていく下女の姿が、雪中梅とともに描かれています。染めこみの浴衣をひるがえし、杓子や擂粉木を角のように振りあげ、塗り下駄に赤前垂れの、かなりゆるい「異物」です。

 
では最終テキストにいたる過程を想定してみましょう。

手折られし梅のしつけを下女にさせ〔第1形態〕
    ↓
 梅が香に化けたる下女の声いろいろ〔第2形態〕
    ↓
 化物の声聞け梅を誰折ると    〔最終形態〕

第1形態のままでは「しつけ」が前句「懲らす」に付き過ぎです。
そこで第2形態で「しつけ」を抜き、さらに最終形態で「下女」を抜き、「声いろいろ」を具体化して元禄疎句体に仕上げた、という見立てです。

 
ところで、これら「抜け」の連鎖を、本稿では「飛ばし形態」と呼んできました。
 
そして夫々の付句形態には、さん・くん付けでニックネームもつけてきました。これはシンゴジラを真似たつもりでしたが、そもそも喩的効果を持った付句にニックネームを付けるのは形容過多で、あまり得策ではないと気づきました。
 
なのでウラに入ったのを潮に、ニックネームは取りやめることとします。

「なんや最初の勢いがのうなっとるやないかい。そなたも政治屋、マネとるんちゃうか」

……はい、公約は撤回させて頂きます。

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