相子智恵
嬰児に顔まさぐられ春の夜 杉原祐之
嬰児に顔まさぐられ春の夜 杉原祐之
句集『十一月の橋』(2022.04 ふらんす堂)所収
赤ん坊が目で見たものを手で触ろうとするのは、だいたい生後4ヶ月くらいからだが、この時の赤ん坊の視力は0.04~0.08くらいしかないから、ほとんど見えていない。視力が1.0になるのは4~5歳くらいである。
掲句、赤ん坊を抱いているか、あるいは添い寝をしているのだろう。その間ずっと顔をまさぐられ続けている。赤ちゃんは、ぼんやり見えたものを興味深く触っているのである。手はきっと、よだれでベトベトだ。よだれまみれの手で顔をまさぐられる、暖かく湿った春の夜というのは、はたから見ればちょっと気持ち悪くもあるが、親にとってはそのような為すすべのなさも喜びなのであろう。
吾子俳句でも決して甘くはなく、どこか不思議な気味の悪さがあって、だからこそ「生きている」という実感が乗った句だと思った。
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1 件のコメント:
好意的な鑑賞有難うございます。鑑賞の通り何とも不思議な気分になってできた俳句です。
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