樋口由紀子
宗教家の芋けんぴ破獄などしない
川合大祐(かわい・だいすけ)1974~
時の政府と折り合えなかった多くの宗教家は投獄された。その中には破獄した人もいたかもしれない。芋けんぴなら隙間をぬって脱出できそうなのに、破獄などしないと言い切る。フィクション性を多分に含み、作者ならではの主観の打ち出し方である。
「宗教家」「破獄」と意味性の強い言葉が使われているのに、喜怒哀楽を喚起したり、感情を刺激しない。中ははさまる「芋けんぴ」がシャットアウトしている。そもそも「宗教家の芋けんぴ」とは何だろうか。「の」で素知らぬ顔で結びつけているが、省略が効きすぎて路頭に迷う。職人は目の前にある材料だけでものをつくると言われるが、掲句もそのようである。周知の感覚を上から横から揺さぶってくる。『ザ・ブック・オブ・ザ・リバー』(2025年刊 書肆侃侃房)所収。
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