2014年9月17日水曜日
●水曜日の一句〔中村慶岳〕関悦史
関悦史
枡酒のやうに新茶を枡で飲み 中村慶岳
容器が変わっただけのことで味は変わらないはずではあるが、枡から飲む新茶は量感、質感とも湯呑みのそれとは相当異質の物体のようにも思える。澄んだ中にもコクや色艶を帯び、重みを増して、酒とも茶ともつかない、その両方の性質を帯びた液体と化しているようだ。
新茶の清冽と覚醒、枡酒の芳醇と酩酊では方向が反対のはずだが、そのどちらもが損なわれないまま、二重性のうちに味わわれているようなのである。
落語の「貧乏花見」よろしく酒に見立てた新茶で我慢しているというわけではない。それどころかここには、この姿を見よといわんばかりの充実と自足があふれている。
「色即是空」「心頭を滅却すれば火もまた涼し」などというかわりに新茶の覚醒即枡酒の微醺という形でこの世のうつろい、流動を全肯定してみせた格好であり、いささか灰汁の強さはあるものの、「新茶」のうまさと、そこから呼び覚まされる幸福感を、かくも慎ましやかでなく、大ぶりに打ち出した句は稀なのではないか。
ちなみに作者は妻帯せる臨済僧であり、この句は「夫・中村慶岳を心から尊敬している」と略歴に書く二十歳下の妻・文(ふみ)との合同句集に収められている。
中村慶岳・中村文句集『東福寺』(2014.9 本阿弥書店)所収。
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