西鶴ざんまい #100
浅沼璞
初夜にかならず燃る恋づか 打越
外枕憶えなき身を祈りつめ 前句
七の社の砂ぬすみぬる 付句(通算82句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】
名残ノ折・表4句目=神祇(社)。
七の社の砂(ななのやしろのすな)=「京都船岡山の南東にあり。宇多天皇の后君寵恢復を祈り霊夢によつて社前に白砂を以て三笠山の形を築く。後世祈願ある者これに倣つて砂山を築いて祈るといふ(雍州府志・京羽二重織留)」『定本西鶴全集』頭注
※『新編日本古典文学全集61』に、「恋(七の社の砂ぬすむ)」の記述があるが上記「君寵恢復」の故事によるか。
【句意】
七野社の砂を盗んだ。
【付け・転じ】
前句「祈りつめ」から七野社を連想しての転じ。
【自註】
京都の中に七のやしろの宮居(みやゐ)たゝせ給ふ。むかしよりいかなる事の子細にや、此の神前の砂を盗みて人を祈りけるに、心にまかさぬといふ事なし。是によつて、神主、番をして砂をすこしもちらさぬ事也。又、願ひ叶ひし女は、ちひさき*砂車を拵へて我が宿の砂をまゐらせける。
*砂車(すなぐるま)=砂の運搬用の車。遺稿集『西鶴俗つれづれ』(四ノ二)に「七野社に砂車」なる一節がある。
【意訳】
京都の市中に七社という神社がございます。昔からどのような子細からか、この神社の砂を盗んで人を呪詛すると、その祈りが成就しないということはない。このことによって神主は見張り番をし、(神前の)砂を少しも散らさぬよう管理をした。また祈願の叶った女は、小さい運搬用の砂車を用意して自宅の砂を社前に奉納した。
【三工程】
(前句)外枕憶えなき身を祈りつめ
七の社の宮居たゝせる 〔見込〕
↓
七の社の心にまかせ 〔趣向〕
↓
七の社の砂ぬすみぬる 〔句作〕
前句「祈りつめ」から七野社を連想し〔見込〕、〈なぜ連想したのか〉と問うて、祈願がよく叶うからとし〔趣向〕、「砂ぬすみぬる」と具体的な祈願の行動を以て表現した〔句作〕。
【テキスト考察】
『新編日本古典文学全集61』には〈前句の「祈りつめ」る心的状況を行動で描いた付けで、やや同意の気味がある〉とあるが、これは妥当な解釈であろう。
すでに前句の自註で「丑の刻参り」や「山伏への呪詛の依頼」を具体的に描いていたのだから当然であろう。
けだし西鶴の意識では自註は見込・趣向を練るための前テキスト的なものと割り切り、前後の重複は意に介さなかったのかもしれない。このへん後続の付句/自註の考察において十分留意すべき点であろう。
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