2010年2月14日日曜日

●おんつぼ27 エリオット・スミス 松本てふこ


おんつぼ27
エリオット・スミス Elliott Smith



松本てふこ

おんつぼ=音楽のツボ



エリオット・スミスについて誰かと話したことはほとんどない。大学生の頃、新聞で死亡記事を読んで、親に「私、この人好きだったんだけどな」とぼそっと呟いたくらいだ。好きといっても持っているCDは、彼の作品で一番売れたと言われる『XO』1枚きり。買ったのは99年だから高校生の頃、好きなバンドのメンバーが絶賛していたから、という実によくある話である。他のアルバムを1枚聴いてみたがいまいちピンと来ず、『XO』は大好きだからこれ1枚を聴き続けていればいいや、と思っていた。

彼の死亡記事を読んでからも、私はそんな調子だった。誰かと音楽の話をして「何かオススメある?」と聞かれても、人を部屋に呼んでかけるCDを探す時も『XO』を選ぶことはなかった。寒いなあ、だるいなあ、お腹減ったなあ、あれ面倒だなあ、そんなことを考えながら、濃くて安い味の紅茶をいれて、たったひとりで聴く音楽だった。

去年の秋くらいから「毎日が忌日」への投句にハマった。俳人や文学者にとどまらない人選が嬉しくて、自分でもwikipediaで好きな物故ミュージシャンの忌日を調べているうち「エリオット・スミスって、忌日いつだっけ」と思い立った。調べてみたら、その日の二週間か三週間前だった。見落としてたかと思って見返した「毎日が忌日」に彼の名前はなかった。ケルアックとトリュフォーと川崎洋と同じ忌日。丸山薫、アラカン、笹沢左保も。他の日と比べるとずいぶんたくさんいる。

だけど、だけどだ。エリオット・スミス、載せたらいいのに。あんないい歌、歌うのに。ごつめの顔から想像できない(失礼!)繊細で素敵な声なのに。こんなことを思い、けっこう真剣に落ち込んでいる自分がいて、びっくりした。一度自覚してしまうと病は深まるばかりで、今さらながら他のCDを買ってみたり、ブックレットの解説を熟読してみたり。

新撰21のイベントである方に「私、今度エリオット・スミスについて書こうと思うんです」と話したら、「メジャーじゃん」と言われた。自分以外のリスナーの存在を忘れさせるような静かさが彼の作品にはあって、メジャーかマイナーかなんて考えてもいなかったので、一瞬ぼんやりしてしまった。もっといろいろお話したい気持ちはあったが、話はそこで終わってしまった。というわけでいつかエリオット・スミスの話をしましょう、Sさん。

  ポストからつぽエリオット・スミスの忌     てふこ

寒さに似合う度  ★★★★★
声が可愛い度   ★★★★


[オススメアルバム]『XO』




「知らない町の吹雪のなかは知っている」という佐藤文香さんの句を読んで、この歌を思い出した。

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