2014年2月12日水曜日

●水曜日の一句〔野崎憲子〕関悦史



関悦史








月光の棲む廃墟こそ未来圏  野崎憲子

いま『ふらんす堂通信』で「BLな俳句」というのを連載していて、そこでは少年愛、同性愛をテーマとする、あるいはそう見立てることのできる句を蒐集しているのだが、それとは別にSF的な句のアンソロジーはできないかと思いつき、どこに出すあてもないのだが、ぼちぼち句を拾い集めはじめた。じつはそういうテーマの本は既にあるのだが、取り寄せて読んでみたら、思っていた内容とかけ離れていたためである。

この句などはSF俳句アンソロジーができたらそれに入集させたいもののひとつで、「月光」と「廃墟」がありきたりの予定調和的耽美世界を形作るかと思いきや、それこそが「未来圏」なのだとの断定へいきなり飛躍する。

その前に月光が「棲む」で生き物めいた異化を施されている点を見逃してはならない。月に照らされた廃墟が未来世界を思わせるというだけではなく、無人の人工物の集積がまとう得体の知れない生気が、あたかも『2001年宇宙の旅』のディスカバリー号船内ででもあるかのような、不安と魅惑を同時にかきたてるさまを一句に具現化させているのは、この「棲む」の一語にほかならないからである。

そして「圏」が、この廃墟だけにはとどまらない一定の広がりが背後にあることを暗示する。

無人となり、死物たちのみが残る未来が、単なる美しい静謐ではなく、超越的な何ものかと、人の営為の集積が織り成す、或る豊かな濁りを蔵したものとなっており、空想的な安易な慰藉には収まりきらない、荒々しいような肉厚さと俊敏さが潜んだ句となっている。廃墟美を捉えた句としても、異色のものなのではないか。


句集『源』(2013.11 角川学芸出版)所収。

1 件のコメント:

野崎憲子 さんのコメント...

関悦史さま
拙句集よりの一句をご紹介くださり有り難うございました。ご高覧くださり嬉しいです。関さまの、ますますのご健吟とご活躍を祈念いたします。野崎憲子拝