小津夜景
【みみず・ぶっくす 05】3つのマント
1 オホーツク・エトピリカ篇
冬の陽をふちどり虹といふ寝息
海鳴りがある貌のない音信に
湯冷めして割れん大地や鉄路鳴く
北風よ髪はとかずて馳せ参ず
犬橇の手は温くしてほのしづか
しはぶきのやうな袋が飛んでゐる
なみがしらなみだをまばらなしながら
ボルシェビキなるは肋のことなるか
神去りしことを光のマントかな
冬鳥のこゑが好きよとゆうてみる
2 フリードリヒ・ヘンデル篇
うたたねに死父のぬかるむ冬館
声楽家冬の虫歯をひつこぬく
つはぶきを娶りバロック晩餐会
枯野より寒いメニュウを読んでをり
火の番のシェフや織りなす肉の罠
ティンパニで食べるごはんの怖さかな
サラバンドなまこはうまく踊れない
エクレアをエロイカ的な鬘と思ふ
ねぐらまで食パン抱いてももんがよ
三分のマントで旅をしてをりぬ
3 フォトグラム・エクリ篇
過ぎ去りし時のマントを垂らしをり
くつがへす雪ぞすべなく陽を恋ひて
独りにしあればふいよるどふうの影
カトレアを光を耳に切り落とす
すずしろは透きとほり夜の餌となる
掌にかろき夜半の風花うすみどり
冬ざれがわたしの貌をおぼろにす
しまくまだその窓にゐてほむらなり
まかがやく葱のごとくに眠るかな
冬鹿の家族に瞠つめられてゐる
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