2015年2月4日水曜日

●水曜日の一句〔中村遥〕関悦史



関悦史








瓦窯潰えて桜鯛の海  中村遥


瓦を焼くための窯が潰えたことと、桜鯛のいる海とはさしあたり関係がなく、たまたま景色として隣り合っているだけに過ぎない。

ただし「て」で繋がると日常の因果関係とは別種の、緩やかな連続性が生まれる。「瓦窯」が「桜鯛の海」に変生を遂げたように見えてくるのである。

夢の論理では、何かが消えて代わりに別の何かが現れたら、それは姿を変えた等価物だという。そうした夢的論理が句の背後に通っているため、この世の景色しか描いていないにもかかわらず、何やら楽園じみた幸福感が出てくるのである。

瓦窯は古代の遺跡などでも見られるものだが、人為の痕跡が穏やかに消えてゆき、大自然へと移り変わってゆくさまは『天空の城ラピュタ』で描かれたそれにも似る。


作者情報をつけくわえておくと淡路島に実家を持つ女性であり、《時化明けの港に蜂の巣を焼けり》《秋の蜂踏みつぶしたる舟の上》など、陸のもの海のものが出会う現場を掬って独特の旨味を持つ句が多い。


句集『海岳』(2015.1 本阿弥書店)所収。

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