浅沼璞
編笠は牢人かくす小家かな 西鶴
『点滴集』(延宝8年・1680)
ほんらい暑さをしのぐ「編笠」だが、用途はさまざま。プライドの高い浪人(当時の用字で牢人)が、その氏素性を隠すためにかぶったり、わけありの遊客が遊里の入口で借りたり。深編笠もイロエロである。
そこで〈編笠は小さな隠れ家だ〉と見立てをきかせたのが掲句。
がしかし、それにしても、もし浪人が遊里の青暖簾をくぐるのだとしたら〔*〕、〈隠れ家〉を被った男がさらに〈隠れ家〉へしけこむわけで、なんとも癒えぬ……失礼、なんとも言えぬ、滑稽さが目に浮かぶ。
やめられない、泊まれない〈隠れ家〉の連鎖、とでも言おうか。
〔*〕「青暖簾」は端女郎の部屋にかけた紺染の暖簾。
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