2018年10月5日金曜日

●金曜日の川柳〔井出節〕樋口由紀子



樋口由紀子






父はときどき菓子折りさげて芒野へ

井出節(いで・せつ)1944~2005

父親が菓子折りを持ってときどきどこかに出掛けることはありそうなことである。しかし、行き先が「芒野」とは、読み手の予想を裏切る。「芒野」は癒しの場として読むこともできそうだが、よからぬところのような気もする。

「ときどき」だから、今回だけではない。ときどきそうしなければならないものが父にはある。芒野に行かなければ遣り過ごせないものを抱えている。それが「父」というものだと父である作者は言っているように思う。菓子折りをさげる父、芒野へ行く父、そんな父の姿が見えてくる。〈一つめの桃は見送ることにする〉〈いかがせむいかがせむとて舞いにけり〉〈哄笑うために赤い鳥居によじ上る〉 『井出節川柳作品集』(2002年刊 川柳黎明舎)所収。

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