樋口由紀子
私の影よ そんなに夢中で鰯を喰ふなよ
中村冨二(なかむら・とみじ)1912~1980)
それはまさしく自分の姿である。影を通して、自分を見ている。鰯を夢中で食べるのは生きていくためである。その姿は可笑しいような哀しいようなで、ちょっといびつで壊れた格好はいままで以上により愛おしく見えたのだろう。一体、私はどんな格好で生存しているのだろうか。
七八八の川柳で、冨二独自の文体を作り上げている。五七五で作り直したら、たぶん台無しになると思わせられる技である。言葉は文脈のなかで意味が生じる。それがごく自然に感じるのは、言葉の配置の上手さによるのだろう。この文脈の中で生み出されないものがある。『中村冨二・千句集』(1981年刊 ナカトミ書房)所収。
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