2025年4月18日金曜日

●金曜日の川柳〔旅男〕樋口由紀子



樋口由紀子





延命にあと一票足りませんが

旅男(たびお)

大病を患ったので、「命」という言葉に敏感になり、「余命」「延命」などと聞くとビクッとする。一票足らないから延命はされないのか。こんなに軽く決めていいのかと、読み手は思う。だから、川柳にしたのだろう。

「一票が足りません」と断定するのではなく、「一票足りませんが」、さて、どうしますか?と問いかけている。一見、冷めた視線だが、そこから見えてくるものに焦点を当てる。「延命」の難しさや「一票」の重さが、「足りませんが」で心情的解釈をいったん遮断して、居心地の悪さを露にする。これから「命」はどう扱われていくのか。死生観、無常観が根底にある。「川柳アンジェリカ」(2024年刊)収録。

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