樋口由紀子
船底に乱反射して月の群れ
しまもと菜浮(しまもと・らいふ)
暗闇の波間に、黒い船体に、ときおり波が打ち寄せ、月が映る。実際に見たのを言葉にした写生句か、あるいは映画などで観たのを記憶をしているのかもしれない。その月は眩しいほどに美しく、この世のものとは思えないほど輝いている。
「月」に「群れ」の一語をつなぐことによって、「月」につきまとう崇高さが抜けて、俗臭をまとい、一気に身近に迫ってくる。映像として虚構性をまとわせながら、視覚的なリアリティを持って、奇想化する。「月の群れ」のなかに交じって乱反射している作者の姿も思い浮かんでくる。『のんびりあん』(俳句短歌We社 2024年刊)所収。
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