西鶴ざんまい #93
浅沼璞
平調の笙の息つぎ静にて 打越
詩人時節の露を哀み 前句
此の夕孤猿身を断つ峯の花 付句(通算75句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】
三ノ折・裏11句目。 春(峰の花)=13句目・花の座の二句引き上げ。 季移り(前句の秋の「露」を春の「露」と見替える常套手段)。 孤猿=群れを逸れた猿。
【句意】
この夕べ、孤独な猿の声を聞く人は身を断つような気分だ(と伝え聞く)が、峰の桜は咲いている。
・参考〈猿を聞く人捨子に秋の風いかに〉(芭蕉・野ざらし紀行)
【付け・転じ】
前句の詩人の露への哀感を、猿の声を聞く人のそれへと響かせ、山猿の取合せとして「峯の花」へと転じた。
【自註】
此の付けかたは、前句に、詩人、其の時節に消え行く露までもあはれみたるありさまを請けて、*詩の言葉を以て、「孤猿身を断つ」と一句に仕立てし。されば**巴峡の猿の鳴声、すぐれて物がなしく、哀れなる事、聞き伝へし。則ち***花所なれば「猿」の****取合せに「峯の花」也。
*詩の言葉=〈孤猿更ニ叫ブ秋風ノ裏、是レ愁人ニアラザルモ亦腸ヲ断タン〉(唐詩選・載叔倫・七絶)
**巴峡(はかふ)=揚子江の急流地帯における三峡のひとつ。
***花所(はなどころ)=花の定座。前述のとおり二句引き上げ。
****取合せ=「峯― 猿の声」(類船集)
【意訳】
この付け方は、前句の詩人がその時節に消えていく露までも哀れむ、そのありさまを受けて、漢詩の言葉を以て「孤猿身を断つ」と一句に作りあげた。そういえば揚子江の巴峡の猿の鳴声はとても物悲しく、哀れであることは既に聞き伝えていた。それに花の座も近いので「猿」に「峯の花」を取合せたのである。
【三工程】
(前句)詩人時節の露を哀み
聞き伝ふ孤猿身を断つほどにして 〔見込〕
↓
此の夕孤猿身を断つほどにして 〔趣向〕
↓
此の夕孤猿身を断つ峯の花 〔句作〕
前句の詩人の露への哀感をうけ、猿の声への断腸の思いを詠んだ詩を引き〔見込〕、〈どのような時分か〉と問うて、「此の夕」と時分を定め〔趣向〕、花の座も近いので「猿」に「峯の花」を取合せた〔句作〕。
【テキスト考察】
『新編日本古典文学全集61』では〈「露」は秋季に限られないというので「花」を付けたのであろうが、秋から春への季移りもやや気になるところ〉とある。しかしこの面のように月の座と花の座が近い場合、秋から春へと季移りになるケースは珍しくない。『新版・連句への招待』(泉書院)では歌仙(=百韻の略式)でも似たケースのあるのに言及し、「月」「露」「雁」などが春季に見替えやすい言葉として「季移り」に多用される由、解説がある。
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