2013年9月5日木曜日

【新刊】鴇田智哉『今日から始める 楽しい俳句入門』

【新刊】
鴇田智哉『今日から始める 楽しい俳句入門』




『60歳からの楽しい俳句入門』(2008年)の改訂。


2013年9月4日水曜日

●水曜日の一句〔五十嵐秀彦〕関悦史



関悦史








本郷に軍人の墓黒麦酒  五十嵐秀彦

ハードボイルドな文体で名詞と助詞ばかりが並び、心情的なことは何も言っていないのにその裏にあるものを感じさせる点、ある種俳句の手本のような作り方。

縁者に軍人がいてその墓に詣でたというわけではなさそうだ。本郷でたまたま軍人の墓を見かけたという軽い意外感がこの「に」からは感じられる。

「本郷」からまず連想されるのは東大である。日本の急拵えの近代化を担うべく官僚養成機関として作られ、今も機能し続けている。これが「軍人の墓」と並ぶと、明治維新から大戦を経て現在に至る近代日本の歩みがおのずと立体的に浮かび上がってくる。

そうして不意に心の中に差し入ってきた近代日本の暗さ、重さに「黒」でもって和しながらも、それを飲み下せるものへと慰撫してくれるのが「黒麦酒」なのだ。飲み下すときの内臓感覚を通し、歴史の彼方に没した人たちの身体とつかの間ながら共振しあっているようにも思われる。


句集『無量』(2013.8 書肆アルス)所収。

2013年9月3日火曜日

●絹




赤い地図なお鮮血の絹を裂く  八木三日女

大阪に絹の雨降る花しづめ  ふけとしこ

一枚の絹の彼方の雨の鹿  永島靖子

二の酉を紅絹一枚や蛇をんな  太田うさぎ

乳房をつつむ薄絹夢の軍楽隊  林田紀音夫


※紅絹=もみ

2013年9月2日月曜日

●月曜日の一句〔安井浩司〕相子智恵

 
相子智恵







鵺一羽はばたきおらん裏銀河  安井浩司

「巨蛇抄」(『現代詩手帖』2013.9月号 思潮社)より。

〈はばたきおらん〉だから鵺はトラツグミのことだろうか。夜中にヒョーヒョーと寂しい声で鳴く鳥だ。この句ではもう一方の鵺ーー『平家物語』に出てくる、頭は猿、胴は狸、手足は虎に、声はトラツグミに似ている伝説の妖怪ーーにも思えてくる。その名の二重性が生きている不思議な句だ。

鵺が羽ばたくのは〈裏銀河〉という架空の場所。まばゆい星々が密集する銀河の裏には、逆に濃い闇が密集しているのではないだろうかと鵺から連想する。その闇は何もない「空っぽの闇」ではなく、充填された「満ちた闇」のように思う。なぜなら、たくさんの星が生まれて死んでいく銀河の裏は、たくさんの闇が生まれて死んでいく場所のように感じられるからだ。

現実にいる小さな鳥の大きな羽ばたきのようでもあり、巨大な妖怪のようでもある鵺。空虚なようで満ちている、架空の〈裏銀河〉の闇。目に見えるものと見えないものがぐちゃぐちゃと混ざりあって膨張してゆく、不思議に大きな世界。それでいて、すっきりとした立ち姿の一句に仕立てられている。惹かれる世界である。

2013年9月1日日曜日

●九月

九月


東西屋クラリネットが九月です     中林明美

アカシヤに囁く風も九月とよ  石塚友二

呼気吸気九月レンズを磨くなり     岡井省二

水昏くなりてすとんと九月かな  長谷川双魚

脇腹に鶏を抱へてゆく九月  柿本多映