2015年7月18日土曜日

【みみず・ぶっくす 31】 俳句の書き方 小津夜景

【みみず・ぶっくす 31】 
俳句の書き方

小津夜景






 今日、ふと「寝」にまつわる連作をつくりたくなって、紙に、白河夜船、と書いてみた。すると、こんなのが浮かんだ。

  夜や汝ゆめのしら河いつ越えむ

 私が俳句をつくるとき最初に思いつくのは、わりとこの手の情趣が多いのだけれど、我ながらあまり俳句らしくないなあ、とおもう。むしろ和歌に近いのではないか。もしそうなら、この句を女っぽいと感じる人が多くいるということで、そういうのは、あまり嬉しくない。
 和歌は好きだ。が、少し、たおやめぶりを、消そう。

  大花火ゆめのしら河いつ越えむ

 季語を入れる。出来映えはともかく、いきなり男さびっぽくなった。男さびってことは、つまり芭蕉ってこと? そう考えるとなんだか大船にのった気分だ。気が大きくなったついでに、このさいだから和歌から完全に離れて、もっと男臭さを謳歌してみよう。こんなのはどうか?

  ノイシュヴァンシュタイン城に父の霊

 バイエルン王ルートヴィヒ二世の、雄大かつ狂人じみた住まい。そこに八田木枯「外套のままの仮寝に父の霊」の本句取りを重ね、そこはかとない「大文字の父」の質感へと転じてみた。が、古城&幽霊ということで納涼感はあるものの、連作としての展開が見えない。なにより、寝にまつわる、という趣向を離れていきそうな気配が濃厚である。

  さぶまりん色のばななの寝袋か

 今度は少しライト・ヴァースな方角を目指す。ライトすぎると散漫になるので、語尾の「か」で存在論っぽい質量を加えてみた。
 うん。この句、私は好きだな。ただし、これ一句で存在するのであれば、という限定つきで。たぶんこの系統の句が十個並んだら、変に気負った自意識が出るとおもう。ばかばかしさって、根がシャイな感じでないとキマらない。
 と、あれこれ思案しつつ、いろんな方向を試したものの、結局どのように書いたらよいものか、なんとなく決まらずじまいだった。こまったなあ。明日から旅行なのに。
 今週のみみず・ぶっくす、どうしよう。
 しょうがない。とりあえず昼寝しよう。眠っている間にいいアイデア思いつくかもしれないし。思いつかなくてもそこで見た夢を写生すればいい。うん、そうよね、と呟いてわたしは布団を敷き、雨戸を閉め、いそいそと横になる。ううねむ。みんな、どうやって俳句を書いているのかなあ。いつか人と会うことがあったら尋ねてみよう。おやすみなさい。

夕顔のしぼみて夢路入りがた
書を抱きはんなり舟を漕ぐあそび
睡郷に逢うていつものソーダ水
思ひ寝を弔ふバニラアイスかな
雲の峰コントラバスを寝転ばす
かさぶたのつばさは天に睡る蓮
ほととぎす千夜一夜を姦しく
夜来香(イェライシャン)ねたばこの火を授けあふ
夢殿やくらげの脚をくしけづる

空夢に夜あけと共に水を撒く

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