書いておきたかったのはそのことではない
福田若之
書いておきたかったのはそのことではない、ということがしばしばある。
たとえば、大澤真幸『量子の社会哲学――革命は過去を救うと猫が言う』(講談社、2010年)が僕の目を引いたのは、明らかにその副題が五七五だったからであって、書いておきたいのは単にそのことなのだが、単にそのことだけを書こうとすると、こんなことを書いて何になる、という思いがただちに湧いてくる。
かといって、「革命は過去を救うと猫が言う」というこの五七五は、僕にはとりわけ感動をそそるものでもない。要するに、それが五七五だという気づき以外には、際立った感興はない。
それで本の中身について何かを書こうとする。すると、読み手からしたら引用文とそれについての解釈が文章の主題であるようにみえるのだが、実は書き手の言いたいことは冒頭の「副題が五七五だったのでつい手にとってしまった本に、こんなことが書いてあった――」というところにしかない、という奇妙な文章が仕上がる。しかし、読み返して、書いておきたかったのはそのことではない、とつくづく思う。
そんなわけで、僕は四日前に書いたためしがきをまるまる消してしまったわけだ。
2015/11/21
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