2017年3月27日月曜日

●月曜日の一句〔ふけとしこ〕相子智恵



相子智恵






言い忘れしことばのやうに幹に花  ふけとしこ

俳句とエッセー『ヨットと横顔』(2017.2 創風社出版)より

桜の太い幹に直接、二、三輪の花が咲いているのはよく見かける。いわゆる「胴吹き桜」だ。幹から花が咲くのは古木に多いという。通常なら枝の然るべき場所から咲く花が、幹から直接吹き出している様は、見るたびに不思議な感じがする。

「言い忘れしことばのやうに」と言われてみれば、その二、三輪の花は、喉から出るのを忘れた言葉のような気がしてくるから面白い。言い忘れたとはいえ、その言葉は無かったことにはならず、体内でポッと花開いていて「あ、あれ言い忘れたな」と気づくのだ。

胴吹き桜が幹をそこだけ明るく灯すように、言い忘れた言葉は心の一部分をわずかに照らす。この言い忘れた言葉は、きっと(忘れたことも含めて)明るい。

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