樋口由紀子
はんぺんかたまごかすじか退職か
森山文切 (もりやま・ぶんせつ) 1979~
上五中七までは鍋のなかのおでんをどれにしようと迷っているふうである。それが、突然の、結句の「退職か」である。実際におでんを選んでいるときに、ふと、今はそれどころではないことに気づいたのかもしれない。おでんはなんだっていい、どれを食べてもそう大差はない。なによりも人生に影響するものではない。しかし、職を続けるか、辞めてしまうかは、生活していくうえで重要課題であり、目下の最大の悩みである。今、決断を迫られている。
おでんを隠れ蓑して、カモフラージュしないと、大事なことが言えない。どさくさに紛れて、あるいは、たいしたことのないように見せかけて、スルーさせながら、独り言のように、内面を吐露する。それがかえって、現実を一気にぐっと引き寄せる。『せつえい』(2020年刊)所収。
0 件のコメント:
コメントを投稿