樋口由紀子
タクシーで少女時代を追い越して
千春 (ちはる)
自転車や自動車で通り過ぎるいつも見慣れている町もタクシーに乗っていると、景色が違って見える。自分の車だと前方しか見ないから、突然まわりが見えだすと別の世界に来たようで落ち着かなくなる。
「少女時代を追い越して」とあるが、今はどの時代にいるのか。時間軸が狂ってしまったのだろう。少女時代の前なのか、後なのか。これからやってくる少女時代を通り過ぎてしまったのか。それとも過って経験した少女時代を追い越したのか。それも、タクシーだから、誰かに、それも、見知らぬ人に運ばれて、今どこにいるのかわからなくなってきた。時空感覚のマヒを体感しているようである。『てとてと』(私家本工房刊 2020年)所収。
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