樋口由紀子
ひとのくぼみにちょうどいいレモン
妹尾凛 (せのお・りん) 1958~
梶井基次郎の『檸檬』を思い出した。身体のくぼみにレモンを置くのかと思ったが、少し趣は違う。このレモンは梶井の仕掛けた檸檬のような緊張感はない。
「ひとのくぼみ」は気配で、得体の知れない憂鬱、心のへこみだろう。大きさ?重さ?色彩?バランス?何が「ちょうどいい」のか。どれもが当てはまるように思える。レモンはさわやかな印象はあるが、その酸っぱさに悲しみが広がっていくような気もする。
「ちょうどいい」は何よりも前向きの思考である。埋まることのない喪失感とさびしさをそう思うことで気持ちを切り替える。自分の繕い方法、ごまかし方を知っている。たぶん、何であろうとも「ちょうどいい」と対処しているのだろう。『Ring』(2020年刊)所収。
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