樋口由紀子
5年前のうちわがはいと言いません
兵頭全郎 (ひょうどう・ぜんろう) 1969~
そもそも「うちわ」には感情がないから、自分の意思を伝えようとはしない。百歩譲って、もし「はい」とか「いいえ」とか言ったとしても、ちょっと風を送るぐらいで、それ以外ふだん大した仕事をしないと心得えているうちわでは大勢に影響を与えないだろう。内容的にはたぶん身も蓋もないことである。もちろん、事実でもない。だから真剣に考える必要もなく、えっと思えば、ただそれだけですむのだが、ちょっと変な日常語の連なりに虚実の間を往還するような不思議な気配が通っている。
切れを使わずにねじれを与え、今ここでないところへ、理屈の通らない環境へ転換を図っている。時間的経過も加味して、現実の手触り感があるうちわをモチーフにして、こんなおかしな、ふつうではない世界を作り上げた。
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