相子智恵
卵黄に細き血管熱帯夜 岸本葉子
卵黄に細き血管熱帯夜 岸本葉子
句集『つちふる』(2021.6 角川文化振興財団)所載
暑くて眠れない熱帯夜に、遅くまで書きものでもしていたのだろうか。簡単な夜食でも作ろうと、卵を割ったのかもしれない。何気なく割った卵の黄身の中に、細い血管があるのに気づいた。有精卵なのだろう。
誕生する前に死んでしまった卵の中の、細く小さな血管と、暑さと湿気がべたべたと体にまとわりつくような熱帯夜が、肌感覚で取り合わされている。句の書きぶりは端正な写生なのだが、取り合わせの響きによって、グロテスクな感じが醸し出されており、印象深い一句である。
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