相子智恵
きりぎしの月光を吸ひつくしたる 杉山久子
句集『栞』(2023.9 朔出版)所収
海辺の断崖絶壁を思う。美しい句だ。海面は白波が月光を反射して輝いている。陸地もまた、草花を月明かりが照らしているのだろう。海から垂直に切り立った切岸の岩だけが黒く、そこだけが月光を吸い尽くしてしまったかのように暗い。夜の中にある明暗。〈吸ひつくしたる〉から見えてくる切岸の空間的な大きさと厳しさ。一点の闇を見せて、月の明るさを感じさせた。スケールの大きな、鮮やかな一句である。
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不定期・正午更新●『週刊俳句』の裏モノ●another side of HAIKU WEEKLY
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