相子智恵
鳥のこゑみなあかるくて栗を剝く 中岡毅雄
句集『伴侶』(2023.8 朔出版)所収
栗を剝くのは、指は痛くなるし、結構大変な作業だ。黙々と剝いているのだと思う。その作業の間には、ただただ鳥たちの明るい声が聞こえている。
一句は、明るい鳥の声から出発し、下五で因果のない〈栗を剝く〉という急な場面転換(だからといって唐突な取り合わせではなく、確かな実感がある転換だ)を迎える。この展開によって、栗を剝く近景のほかに、里山の栗の木と青空が脳裏に浮かんできて、なんとも言えず穏やかな気分になる。このような静かで明るい句は、作れそうで作れない。作為のない、けれどもふいに大きな詩的驚きがやってくる、心地よい一句である。
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