相子智恵
大晦日一円玉を拾ひけり 三村純也
句集『高天』(2024.12 朔出版)所収
11月の終わりに少し先の句を……と思いつつ、あっという間に大晦日が来てしまうのだろうなと、ちょっとため息が出たりする。
さて、掲句。大晦日という一年の締めくくりの日に、道端かどこかで一円玉を拾った。落ちていても、一円玉ぽっちを交番に届けるのも憚られる気がするし(警察もきっと忙しい年末だ)、喜んで拾いたいというものでもない。きっと誰もが一瞥して素通りする一円玉。そのアルミの軽さ、傷だらけの白さ、拾った時の手ごたえのなさ……。
なんだか、年末の慌ただしさと感慨の中で、一円玉に立ち止まって拾う自分は、可笑しいような気もするし、ちょっと泣きたいような気もしてくる。俳味というのは案外難しいものだが、きっとこういう、一色ではない複雑な滑稽味のことを言うのだろう。
〈元日や手を洗ひをる夕ごころ 芥川龍之介〉という句もふと思ったりする。この一年を振り返る、大きな一日のような気がしている大晦日も、一円玉を拾うという何でもない一日でもあって、その落差が、よく考えてみると不思議な気がしてくる。
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