樋口由紀子
100挺のヴァイオリンには負けられぬ
定金冬二 (さだがね・ふゆじ) 1914~1999
一体、何に対抗心を燃やしているのか。ヴァイオリンは1挺でも存在感があるのに、「100挺」とは大きく出たものである。演奏が始まったら圧倒され、手に負えなくなるはずである。それに「100挺のヴァイオリン」はそもそも勝敗の相手にはふさわしくない。
しかし、それに挑んでいこうとするところがおかしい。反逆精神なのか。たぶん、作者には今、負けられぬものがあるのだ。自分を奮い立たせなくてはならないので、そう思うことで新たな希望を持つのだろう。何故だか、私もなにに対してかわからないが負けられぬと思ってしまった。「負けられぬ」という情緒に対しての「100挺のヴァイオリン」の暗示性に驚かされる。『無双』(1984年刊)所収。
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