相子智恵
たけのこのあの、で留守電切れており 塩見恵介
たけのこのあの、で留守電切れており 塩見恵介
句集『隣の駅が見える駅』(2021.5 朔出版)所載
筍をいただいた後に、送り主からもらった留守番電話を想像した。「筍を渡した時に、アクの抜き方のコツを伝え忘れてしまったから伝えようと思って……」とか、そんな内容の電話ではなかろうか。アク抜きをする前に急いで伝えなければと思った焦りからか、それともうっかり電話を切るボタンを押してしまったのか、「あの」で切れてしまった。送り主の人柄が見えるようで、温かな笑いを誘う。
塩見氏の作風から言えば、「たけのこのあの」の韻の面白さ、何かの呪文のような字面の面白さが先にあって、そこに主眼が置かれた句だとは思う。言葉が先にある空想の句なのかもしれない。しかし、この句のもつアクチュアリティーが、私にとっては言葉の面白さ以上に面白くて、こういう一瞬があるから、人生って悪くないんだよな、と思ったりするのである。
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