2021年5月28日金曜日

●金曜日の川柳〔浮千草〕樋口由紀子



樋口由紀子






死にたいのも死にたくないのも困る

浮千草 (うき・ちぐさ) 1950~

「死にたい」と思ったことは過去にあったかもしれないけれど今は覚えていない。「死にたくない」と思っているけれどそれはしかたがないと今は悟っている。

「死にたい」と「死にたくない」は真逆であり、その差は大きくて重い。生きていることはいずれ死ぬことである。「死にたい」も「死にたくない」も深刻だが、つい口走ってしまう言葉でもある。人の心の揺れを、「死」という誰もが避けては通れないものに、「困る」と微妙で絶妙な温度で受け止める。それは正直で、誠実で、切実な姿であり、自問へと転換する。『杜Ⅱ』(川柳杜人社刊 2021年)所収。

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