樋口由紀子
トマト屋がトマトを売っている 泣けよ
川合大祐 (かわい・だいすけ) 1974~
トマト屋というのを見たことがないが、トマト屋がトマトを売っているのはあたりまえだろう。そのあたりまえのありがたさに「泣けよ」と言っているのだろうか。一字空けのあとの唐突な「泣けよ」をどう受け取ればいいのか戸惑う。
しかし、戸惑いながらも、作者の根っこを見せられたようで感情を刺激する。心の在り処を手探りしているような「泣けよ」である。この突飛さは矛盾や混乱を導入するが、それでいて抒情を付け加えるという機転がある。言葉の向かい方に度胸があり、足踏みしないで躊躇なく進むので、力強さと自由さの中に生産性を感じる。それは句集全体を通して言えることである。『リバー・ワールド』(2021年刊 書肆侃侃房)所収。
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