浅沼璞
朽木の柳生死見付くる 前句
跡へもどれ氷の音に諏訪の海 付句(二オ1句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】二ノ折(折立)、表1句目。 氷の音(春)。 諏訪の海=諏訪湖。
【句意】「後へもどれ」と氷がとける音に(危険を察知して叫ぶ)諏訪湖。
【付け・転じ】打越・前句=落花から「生死」で無常の付け。前句・付句=無常から危険察知への転じ。柳から諏訪湖で水辺(すいへん)の付け。
【自註】信州諏訪の湖に厚氷のはりて、そも/\に狐のわたり初めてより、人馬爰(こゝ)を越ゆ。是を氷の浮橋ともいへり。又、春になりて狐のわたり帰るを見て、其(その)日より渡り絶えける*。不思議に消え侍る。其時、氷に音有り。是に「氷の音」「氷のひゞき」春の言葉になしける。柳は水辺の物なれば、是にて湖を付け寄せ、生死(しようじ)は大事*のうきはしをわたるに思ひ合せて付け侍る。
*この狐の伝説は『西鶴諸国ばなし』(1685年)、『難波土産』(1693年)等にもみられる。
*大事=上下に言い掛けとなっている。[新編日本古典文学全集より]
【意訳】信州の諏訪湖に厚い氷がはって、さてさて狐がそこを渡りはじめてより、人馬もここを越えていく。これを氷の浮橋とも言っている。また、次の春になって狐が渡って帰るのを見て、その日より往来が絶える。不思議と氷は消えるのですが、その時、音がする。これが「氷の音」「氷のひゞき」で(俳諧では)春の季の詞としている。(同じく俳諧において)柳は水辺の題材であるから、これに湖を付け、生死は「一大事」ということで、浮橋を渡る「大事」を思い合わせて付けているのです。
【三工程】
(前句)朽木の柳生死見付くる
危なきを知りては先に心せよ 〔見込〕
↓
厚氷薄くなりゆく危ふさよ 〔趣向〕
↓
跡へもどれ氷の音に諏訪の海 〔句作〕
前句の「生死見付くる」から危険察知の教訓性をみとめ〔見込〕、〈春にどのような危険があるか〉と問いかけつつ、柳=水辺から氷の事故を想定し〔趣向〕、諏訪湖の「氷の浮橋」という題材・表現を選んだ〔句作〕。
今の歳時記では「御神渡り」として載ってる自然現象ですね。
【句意】「後へもどれ」と氷がとける音に(危険を察知して叫ぶ)諏訪湖。
【付け・転じ】打越・前句=落花から「生死」で無常の付け。前句・付句=無常から危険察知への転じ。柳から諏訪湖で水辺(すいへん)の付け。
【自註】信州諏訪の湖に厚氷のはりて、そも/\に狐のわたり初めてより、人馬爰(こゝ)を越ゆ。是を氷の浮橋ともいへり。又、春になりて狐のわたり帰るを見て、其(その)日より渡り絶えける*。不思議に消え侍る。其時、氷に音有り。是に「氷の音」「氷のひゞき」春の言葉になしける。柳は水辺の物なれば、是にて湖を付け寄せ、生死(しようじ)は大事*のうきはしをわたるに思ひ合せて付け侍る。
*この狐の伝説は『西鶴諸国ばなし』(1685年)、『難波土産』(1693年)等にもみられる。
*大事=上下に言い掛けとなっている。[新編日本古典文学全集より]
【意訳】信州の諏訪湖に厚い氷がはって、さてさて狐がそこを渡りはじめてより、人馬もここを越えていく。これを氷の浮橋とも言っている。また、次の春になって狐が渡って帰るのを見て、その日より往来が絶える。不思議と氷は消えるのですが、その時、音がする。これが「氷の音」「氷のひゞき」で(俳諧では)春の季の詞としている。(同じく俳諧において)柳は水辺の題材であるから、これに湖を付け、生死は「一大事」ということで、浮橋を渡る「大事」を思い合わせて付けているのです。
【三工程】
(前句)朽木の柳生死見付くる
危なきを知りては先に心せよ 〔見込〕
↓
厚氷薄くなりゆく危ふさよ 〔趣向〕
↓
跡へもどれ氷の音に諏訪の海 〔句作〕
前句の「生死見付くる」から危険察知の教訓性をみとめ〔見込〕、〈春にどのような危険があるか〉と問いかけつつ、柳=水辺から氷の事故を想定し〔趣向〕、諏訪湖の「氷の浮橋」という題材・表現を選んだ〔句作〕。
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今の歳時記では「御神渡り」として載ってる自然現象ですね。
「そや、その言い伝えと竜宮伝説を足して二で割ったんが『諸国ばなし』の話や」
なるほど。しかしここ数年、地球温暖化のせいか「御神渡り」は確認されてないらしいんですよ。
「らしいって、人ごとのように言うとるけど、そんなんでええんかいな」
いや、世間では「持続可能な開発目標」というのを掲げ、SDGsという言葉が飛び交ってるんですが……。
「? わざわざそうせなあかんいうこっちゃろ。とっくに持続不可能になっとった証しやないか。じきに伝説も季語も死に体になるんは必定やな」
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