相子智恵
鳰の巣の卵だんだん汚れけり 岡田由季
句集『中くらゐの町』(2023.6 ふらんす堂)所収
沼や湖に浮かべて作るかいつぶりの巣。水生植物の茎を支柱に、葦や蓮、水草などを絡めて漂わないようにしてある。
かいつぶりが巣の中に卵を生んだ当初から、いつ孵るのかと定期的に見にきていたのだろう。生んだばかりの頃は光って美しかった卵も、親鳥が温めたり水草に隠したり、泥や糞などにまみれるうちに、だんだん汚れてきた。
卵が孵るまでの期待感と〈汚れけり〉という現実とのギャップが面白い。あっけらかんとした物言いからは、嬉しい風景がだんだん日常風景に変わってきたさまも伝わる。孵るというクライマックスではなく、その途中の汚れを描いたところに脱力するような俳味がある。そして汚れ切ったところで、卵は孵るのである。
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