樋口由紀子
夏みかん夫婦が同じ顔になる
岩井三窓 (いわい・さんそう) 1921~2011
今は品種改良されたが、昔の夏みかんは本当に酸っぱかった。一口、口に入れるだけで、顔面全体も酸っぱくなった。その顔はすぐに想像できる。そして、その顔はなんともいえないくらい滑稽で、愛嬌があった。
夏みかんを食べる前は夫婦はそれぞれ別の顔をしていたのだろう。考えていることとも気になっていることも違っていた。それが夏みかんを口に入れた途端に同じ顔になった。お互いにその顔を見て、二人で笑い合ったのだろう。顔と同時に心が一つになった。『川柳読本』(1981年刊 創元社)所収。
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