2024年1月22日月曜日

●月曜日の一句〔野名紅里〕相子智恵



相子智恵






耳当の外より道を聞かれけり  野名紅里

句集『トルコブルー』(2023.7 邑書林)所収

そういえば耳を温めるための耳当というのは、同時に外の音を遮るものでもあるんだよな、と改めて気づかされる。

ノイズキャンセリングのイヤホンのように、自分だけの音楽世界に没頭するためのアイテムを使う時、人は外界のすべての音やコミュニケーションを遮断する意思をもつ。
かえってそのような意思をもたずに何気なく使う耳当のほうが、自分と他者との間にある、薄い被膜のような境界を浮き彫りにして、その「被膜感」が現代の空気を掴んでいるように思われた。

道を聞いてくる赤の他人の声が、少しくぐもって聞こえる。きっと作中主体は、聞かれた道を教えてあげただろう。他人に道を聞くのも勇気がいる現代だが、耳当という被膜にある、絶妙な寂しさ、人との微温的なかかわり、それを俳句として書き留める作者の視点。何でもない日常の風景に、今という時代が見えてくる気がする。

 

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