樋口由紀子
阿保なこと云うてしもうて淋しけれ
須崎豆秋(すざき・とうしゅう)1892~1961
捻挫をした。もう一月近く経つのにまだ痛みは残っている。旅行中に偶然満開の桜に出会い、もっと見ようと欲張ってスーツケース片手に堤防を上った。そのときに足を挫いた。自分のあさはかな行動が腹立たしく、哀しくなった。
掲句は「淋しけれ」。哀しいとは含意が違う。悔やんでも悔やみきれない痛恨のミスの核心を突く。まして相手が存在する。何を云ったのかは書かれていないが、意に反することだったのか、それとも正直すぎることだったのか。思慮の無さや判断力の甘さが頭をもたげて、すべてのものから置きざりにされているような気持ちになって、この上なく淋しいのだろう。『ふるさと』(1985年刊 川柳塔社)所収。
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