樋口由紀子
帰りたいときに帰れという小雨
真島久美子(ましま・くみこ)1973~
恋句だろう。恋人の家に行っていて、もうそろそろ帰らなくはならない時間になった。外は小雨。強い雨なら、雨が止んでから帰ると言えるが、帰れないほどの雨ではない。恋人も「帰れ」とは言わない。しかし、「帰るな」とも言わない。いつまでも続きそうで止みそうもない小雨。「小雨」の微妙な存在が二人の微妙な関係を映し出す。小雨はひんやりと冷たく、その音はだんだんとつれなく聞こえてくる。
言葉のつなぎ方にセンスがあり、情念をたっぷりと含んだ「私」を濃厚に立ち現わしている。一方、意味深な内容なのに、それに反するように音にのった言葉に躍動感がある。その後、どうしたのだろうか。『恋文』(2024年刊 共和印刷)所収。
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