相子智恵
金魚揺れべつの金魚の現れし 阪西敦子
句集『金魚』(2024.3 ふらんす堂)所収
掲句、初めて読んだのは何年も前のことだが、その時に一発で覚えてしまった好きな句だ。今回読み直してみて、やはり名句なのではないかと思う。
尾が大きく広がった丸っこい金魚を想像する。尾ひれをふわっと揺らして方向を変えた瞬間、尾ひれの後ろにいて見えなかった別の金魚が姿を現す。何でもない瞬間だけれど、ハッとする美しさがある。金魚の美しい色でしか表せない世界だ。
美しさだけでなく、どこか無常観があると感じるのは私だけだろうか。鑑賞のためだけに人の手で改良され、もともと自然界には存在せず、これからも自然界に存在することがない金魚。その自然と切り離された存在がもつ浮遊感、根無し草な感じが、金魚の揺らぎと、前にいた金魚と何の関係もなく、ポッと目の中に現れる別の金魚……という場面にもつながっているような気がするのだ。
降ろさるるとき静かなり大熊手
熱燗のところどころを笑ひけり
ラガーらの目に一瞬の空戻る
秋祭ある沿線やすこし飲む
本書は著者の約40年の日常が詰まった大冊で、読みどころはたくさんある。景色の捉え方はどちらかといえば明るいほうだが、表題句をはじめとして、上に挙げたようなきらめいて見える物や、喧騒の中に感じる一抹の静けさといった、淡い情感も心に残った。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿