相子智恵
峰雲の暮れつつくづれ山つつむ 篠原 梵
岡田一実『篠原梵の百句』(2024.4 ふらんす堂)所収
句集『雨』(1953年)所収。このたび刊行された「百句シリーズ」より引いた。
昼間に大きく発達し、白く輝いていた積乱雲が、夕暮れになるにつれて、徐々に崩れていった。そして積乱雲がかかっていた山を、そのまま大きく包んでいくのである。ドライアイスのような雲に包まれた山は翳り、夕立にけぶるのだ。雲だけを見つめることで、時間と空間の大きさを描いた美しい一句だ。
句の選と鑑賞・解説の岡田一実は、掲句の鑑賞で以下のように述べる。
美学者の小田部胤久は『美学』においてカントの『判断力批判』を引きながら、「天才」の意義は自ら対象の観照にとどまりつつ、人々を世界に対しての無関心から目覚めさせる点にあるとした。観照にとどまる点においても、埋もれた新しい美を見出す点においても、梵のなかの「天才性」を感じさせる、叙景のみに留まった非-メッセージ性の高い一句である。
対象を客観的に描くことに留まりながら、そこから哲学にも通じる美を見出す。代表句の〈葉桜の中の無数の空さわぐ〉にも同じことが言えるのだ。篠原梵の句の面白さを改めて教えてもらった。
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