樋口由紀子
セーターを逆から読むと銀閣寺
千春(ちはる)
「セーター」は逆から読んでも決して「銀閣寺」にはならない。あまりに自明なので、かえって、何故?と思ってしまう。Tシャツに「銀閣寺」と印字されているのはありそうだが、「セーター」と「銀閣寺」に共通するイメージもなく、その関係性も逆から読む必要性もまったくわからない。しかし、きっぱりと言い切っている。煙に巻かれたような一句である。
別に驚かそうとしているのでもなく、理由もないだろう。しいて言えば直観。もし、セーターを逆から読んで銀閣寺にならば、得もいえぬ高揚感をもたらしてくれる。だから、自分の中のもう一人がそう読んでしまうのかもしれない。「セーター」と「銀閣寺」という具体的なものの距離を意外な方法で独自に大胆に近づけている。『こころ』(2024年刊 港の人)所収。
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