しれっと俳句に 三島ゆかり
桂信子の句集を読んでいると、ときどきとんでもなくユーモラスな句に出くわす。
矢面に立つ人はなし弓始 桂信子
「弓始」といえば何かしら厳かな句になりそうなものだが、これである。「矢面に立つ」という、日常生活に取り込まれた言い回しを再び弓の現場に返すと、こんな可笑しなことになる。
頭の中に猫を解体して九月 桂信子
「猫、飼いたい、猫、飼いたい、猫、飼いたい」とだだをこねるよその子どもがいたに違いない。それを聞いているうちに、とんでもない同音異義語を思い浮かべてしまったのだ。それを、しれっと俳句に仕立てるあたり、さすがである。
こういう句は、自選にしても他選にしても、フィルターがかかってしまうと、こぼれがちである。句集という厚さの中で、こういう句を見つけ出したとき、私は無上の幸せを感じる。
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