相子智恵
蝶生る樹々は根方に日を集め 北杜 青
『恭』(邑書林 2020.3)所載
樹々の根元に、やわらかな春の日が当たっている。森か、雑木林だろうか。樹々の根元の草花も萌えだしている。葉裏にくっついた小さな蝶のさなぎが、そっと羽化した春の日。(蝶の羽化の時間を思うと、これは朝の光のような気がしたけれど、午後の日差しでもいいと思う)。
何気ない写生句のように見えて、たいそう美しい句で、私はこの句から「祝福」を感じた。〈日を集め〉は光の美しさだけでなく、あたたかさも感じる。日の光が〈根方〉に集まっているというのも、相当にいい。樹々を見上げた先の光ではなく、樹々の根元に確かにある光。足元の、光だ。
雨雲に日の輪郭や山桜
という句もあって、この光も美しい。雨雲の中に、うっすら見えた日輪。春陰の中に確かに光があることと、白い山桜。何も押し付けてこない句が、心にじんわり染みわたる。
今が非常時だからか、こういう風景句が、よけいに自分の中に染みてくる気がする。しばし、静かな光を感じていたい。
2 件のコメント:
ごめん、細かいことで。句集の漢字、
恭
ですねん。
著者の拘りです。
牙城
ご指摘、ありがとうございます。訂正させていただきました。
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