相子智恵
もろもろの管抜き去つて死者涼し 河野美千代
句集『国東塔』(2020.6 コールサック社)所載
その瞬間に〈死者涼し〉と思えるということは、延命処置なのだろう。命をながらえるために、体とつないでいた人工呼吸器や胃ろうなど〈もろもろの管〉を抜いたのだ。
〈死者涼し〉は、突き放しているようでありながら、静かに優しく、この人を悼んでいるように私には思える。生きてほしいという他者の(自分の、かもしれないが)願いゆえの治療から解き放たれた安らかな涼しさ。
遺された者たちがそれを肯定するのには時間がかかるのかもしれないが、看護師だったという作者は、この死者の本当の思いを知っていたのかもしれない。
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